家族団欒の宴
「全く…」
デメナは軽く、ため息をついた。
アレで、クロニオスを呼んできたつもりだったのか。戦闘面以外の知能が然程高くないサブリナなりの、あまりに露骨すぎる誘導だった。
「お父さん!乾杯!!」
「…乾杯」
だが、クロニオスとペルセが、仲良く互いのグラスを軽く当ててるのを見ると、そんなのはどうでもよくなった。
ペルセは満面の笑みだし、クロニオスの表情も幾分か柔らかい。
「ク、クロニオス様…」
「お飲み物、持ってきましょうか〜…?」
そんな状況で、ハイーラとマールがおずおずと申し出てくる。
クロニオスのグラスの中が半分ほどしか残っていないからか、気を利かせようとしているのだろう。
「ここは宴会の場ですから、気遣い無用ですよ。お気持ちだけ受け取ります」
そんな二人を、デメナは制した。
二人の気持ちも理解はできる。だが、今は無礼講の場だ。立場など、あまり重要ではない。
「おいデメナ」
クロニオスにそう呼ばれ、デメナは振り返った。
眼前には、丸焼きの一部が切り分けられて乗せられている三枚の皿があった。
「そいつらをこっちに呼べ」
「皆でこれ食べようよー!!」
無愛想な父と、無邪気な娘。
表に出てきてる感情は、対照的だ。
だが、デメナには見えていた。二人とも、根底にある感情は一緒である。
ーーー家族皆で、食べよう。
ただ、それだけだった。
「…行きましょうか、お二人とも」
「えっ…?い、いいんですか…?」
「もちろん」
デメナはハイーラ達に優しく声をかけた。ハイーラ達は戸惑っているようだが、デメナには気にもならなかった。
血の繋がりなんて、関係ない。
この場にいる皆が、ペルセの家族なのだ。
「お母さんもマールさんもハイーラさんも!!皆で食べよ!!」
ペルセが腕を必死に振って、三人を呼んでいる。それを見て、ハイーラ達もさすがに観念したようだ。
「…行こうか〜、ハイーラ〜」
「そう、ね…」
二人の表情は、優しいものだった。
やはり、この二人は自分とは違っていても、ペルセの保護者だ。そう、確信させるだけの、優しい雰囲気だ。
「むぐむぐ…美味しいよ!お父さん!!」
「おいおい、慌てて食うな。飯は逃げねぇんだからよ」
幸せそうにお肉を頬張るペルセを、クロニオスが頭を優しく撫でながら諭している。
その隣で、クロニオスは大きな肉の塊を一口で食べていた。相変わらず、豪快な食べっぷりだ。
「ペルセちゃん、落ち着きなさいよ…」
「やっぱり、まだまだ子供だね〜」
「ハイーラさん!マールさん!一緒に食べよ!!」
ペルセの近くに、ハイーラとマールが腰掛けた。
大好きな保護者達に囲まれて、ペルセは心底嬉しそうだ。
ーーーあぁ、良かった。
ダスノム生まれというだけで、残酷な現実を見せられてきた娘が。リドンのせいで、酷い目に遭わされた娘が。
今は、こんなに幸せそうに笑えている。
デメナにとっては、母として、幹部悪魔として、こんなに嬉しいことはなかった。
その目尻には、一滴の涙すら浮かんでいた。
「お母さんも早くぅ!!」
愛しい娘から呼ばれる。
夫であるクロニオスは、声こそかけてこないが、さっさと来い、とでも言わんばかりにこちらを見てくる。
「はいはい、今行きますよ」
デメナはそう言いながら、ペルセの元へと移動した。
そんな宴は一晩中、続くのだったーーー。




