下手な気遣い
あまりの勢いに、ペルセもデメナも、ハイーラもマールも動きを止めた。周りを見ても、その場にいた者、全員が困惑しているようだ。
目の前の鶏の丸焼きは出来立てのようで、触らずとも熱気が伝わってくる。肉の焼ける、いい匂いも漂ってきた。
皆が呆然とする中、鶏の丸焼きを持ってきたと思われる主の声が聞こえてきた。
「貴様がクロニオスの娘か!今回は大変じゃったろう、腹いっぱい食え!!」
「え、えーっと…」
そこにいたのは、先程クロニオスに絡んでいた悪魔、サブリナだった。その表情は、まるで子供のように無邪気な笑顔だった。
しかし、ペルセは戸惑いを隠せなかった。
こんな量、自分ではとても食べ切れない。しかし、無下にするのも悪い気がする。というか、そもそも自分とは初対面なのに、この遠慮のなさは何なのだろうか。
そう思っていると、横でデメナが大きくため息をついていた。
「サブリナさん…もう少し、穏やかに絡めませんかね…?」
「ワシにそのようなものを期待するのか?」
「…せめて自己紹介をしてください。今のままでは、ペルセさんからしたらただの不審者ですよ」
「それもそうか」
デメナが呆れたようにサブリナを諭している。しかし、本人の様子や伝わる感情からすると、諦めも混ざってるように見える。
しかし、サブリナは意外にも素直に、ペルセに向き直った。
「ワシはサブリナじゃ!ダスノムから、よう生きて戻ってきたな、クロニオスの娘よ!」
「わわっ…」
サブリナはそう言うと、高らかに笑いながら、ペルセの頭を乱雑に撫でてくる。髪がグシャグシャになってしまうが、止めることはできなかった。
ーーー豪快な性格だ。
こんなタイプは、見たことがない。
そんな事を考えながら、ペルセがサブリナの方を見つめると、サブリナはそれに気づいたようだ。
「そう畏まるな!堅苦しいのは嫌いなのじゃ!!」
サブリナはそう言いながら、再び笑い始める。
だが、その背後で、ハイーラ達がまたひそひそ話をしている。
「サブリナ様って…あの…!?」
「みたいだね〜。戦好きで有名な〜…」
全てを聞き取ることはできなかったが、ハイーラ達も知ってはいるようだ。
何だか、物騒な話が聞こえてくる。
「…とりあえず、この丸焼きは回収してくれませんかね」
「何!?なぜじゃ!?」
「クロニオスさんならいざ知らず、このサイズを私達では食べ切れませんよ」
サブリナはデメナから諭され、黙りこくってしまう。
確かに、持ってきてくれた丸焼きは、自分一人は愚か、今この場にいる全員で食べても、半分も減らせる気がしない。
それでも、サブリナは少し不満そうだった。その様子を見て、デメナがさらに口を開いた。
「お気持ちだけ受け取りますので…」
「おい、何してんだサブリナ」
デメナがそう言いかけると、その背後にクロニオスが現れた。その手には、大きなグラスが握られており、すでに中身が半分ほどなくなっている。
「おぉ、クロニオス!」
「ったく…丸焼きがねぇと思ったら、余分に持ち去りやがって…そこ退け、バカ」
「ぬぉっ!?」
クロニオスはまるで猫でもつまみ出すかのように、サブリナをその場から退かした。
サブリナも、文句を言いたげにクロニオスを見つめていたが、退かされることには然程抵抗していなかった。
「ったく…親子水入らずか?ならば、ワシは退散するとしようか」
「うるさい。とっとと行け」
サブリナが笑いながら退散する様子を、ペルセとハイーラとマールは呆然と見守っていた。
ーーーサブリナのことは、よくわからない。
でも、悪い悪魔ではないことだけは、ペルセにも分かった。
「…ったく…らしくねぇ」
クロニオスはそう言いながら、デメナの隣に椅子を持ってきて、そこに腰かけた。




