サブリナとの初遭遇
ペルセが呆然としながら辺りを見回していると、ふと一人の悪魔と目が合った。
自分とは面識がない、女性の悪魔だ。ヤギのような巻き角が頭から生えており、机の上から見える上半身は露出度が高い。
ーーーあんな悪魔、サトゥニアにいただろうか。
そう思いながら見つめていると、その悪魔が、通りすがった父・クロニオスに声をかけた。
「おい、クロニオス。あの小娘が、貴様の娘か?」
クロニオスへの態度が、随分と馴れ馴れしい。だが、クロニオスはそれを注意するでもなく、少し嫌そうな顔を浮かべるだけだった。
「そうだ。…サブリナ、お前まさか気になるのか?」
「当たり前じゃ。貴様のような脳筋の娘じゃぞ?」
「俺が脳筋なのは否定しないが、お前も大概だからな?」
クロニオスの言葉に、サブリナと呼ばれた女はカラカラと笑うだけだった。
お互い、遠慮のない軽口をたたいている。だが、デメナ相手にする時とは、何かが違う。
夫婦ではなく、ハイーラやマールのような、長年の友人、というものだろうか。男女であっても、そういう関係になれるものなのか、とペルセは感心していた。
「しかし…なるほど…。貴様が可愛がるのも、分かる気がするのう」
「何だよ」
一人で納得してる様子のサブリナに、クロニオスは不愉快そうだった。眉間にシワを寄せ、サブリナを睨んでいる。
「いやぁ?一目でデメナの子だと分かる。丸っきり、小さいデメナのようじゃな!」
サブリナはそう言って、高らかに笑い始めた。
聞き耳を立ててなくても、丸聞こえなほどの、大きな声だ。何だか、少し恥ずかしくなり、ペルセは顔をそらした。
だが、サブリナの話し声は、まだ聞こえてきた。
「…そう恥ずかしがるな、クロニオス。貴様にとっては、妻にそっくりな娘も帰ってきて、妻も立ち直って、両手に花、というやつじゃろ?」
「サブリナ、その辺にしといてやれ」
からかうように言い続けるサブリナに、隣に座っていたアモディエナが声をかける。
サブリナは軽く唸ったようだが、クロニオスが移動してしまったこともあり、それ以上は何も言わなかった。
一体なんだったのだろう。ペルセは不思議そうに首を傾げていた。
すると、隣の席にデメナがゆっくりと座ってきた。
「全く、相変わらずサブリナさんにはデリカシーがありませんね」
「あ、お母さん!」
その声に、ペルセもハイーラも、そしてマールもデメナの方へと顔を向けた。デメナは微笑みながら、軽く会釈をした。
「サブリナさんは昔から取り繕うことを知らない方ですからね。悪い方ではありませんが、いかんせん…」
デメナはそう言いながら、困ったように笑っている。だが、そんな表情でありながら、内心から見える感情は、極めて穏やかなものだった。
サブリナはクロニオスだけでなく、デメナとも付き合いが長い悪魔のようだ。
「あんな悪魔もいるんだねー…」
「まあ…サブリナさんは、特別ですよ」
ペルセの何気ないぼやきに、デメナが呆れたように答えた。
すると、会食の準備が完了したようで、サトゥニアが手を叩き、大きな音を出した。




