医務室の平穏
「…何だか、嵐のような時間だったね〜…」
静寂を破ったのは、マールの一言だった。
嵐のようだった、というのは一体どこの部分だろう。ペルセにしてみたら、ハイーラが何だか一人で大騒ぎしてるようにしか思えなかった時間だった。
「だいたい私が一人で騒いでたせいよね、それ」
「否定はしな〜い」
どうやら、ハイーラも自覚があるようだ。何だか、少し気まずそうにしている。その横で、マールが静かに笑っていた。
「それにしても、今日は疲れたね〜…」
「まぁ…そりゃそうよね」
そう言うと、二人はゆっくりと椅子から立ち上がる。
確かに、今日はペルセにとってもかなり疲れた一日だった。
いきなり家に大人達が来たかと思えば、ハイーラ達を殴られたし、自分もそれで暴れてしまった。
あの時感じた悪意は、もう二度と感じ取りたくはない。そう思うほど、嫌なものだった。
「今日は、大人しく寝ましょうか…」
ハイーラはそう言うと、医務室内の別のベッドの方へと向かう。そこにはマットレスだけが敷かれており、布団や枕がベッドの端にまとめて置かれていた。
ハイーラはそれを乱雑に取り出し、ベッドの反対側へと投げるように置いた。
「それにしても、ペルセちゃんのご両親って、改めてすごい方達なのね…」
「そう、なのかな?」
ハイーラにそう言われ、ペルセは首を傾げた。すると、ほぼ同時に、マールの声も聞こえてきた。
「このサトゥニアの幹部ってだけでも大概なのに、教科書にも載る大悪魔ってなるとね〜」
「…そういうもの?」
ハイーラやマールの言い方からすると、特に父・クロニオスの方がすごい悪魔らしい。
だが、ペルセにはいまいち、ピンとこなかった。
「でも、私のお父さんとお母さんだよ?」
本当に、それだけだった。それが、ペルセにとっての全てだった。
「…まぁ…それも、そうね」
そう言ったハイーラの声には、何だか若干の呆れすら混ざっていた気がした。
少なくとも、変なことは言っていない。本当の事を言っただけだ。
にも関わらず、二人の反応はどこか微妙だった。
ハイーラとマールは、少し気まずそうな表情を浮かべながら、寝る準備を整えている。
ペルセは不思議に思った。しかし、その思考は、再び訪れた眠気で中断させられた。
瞼が重い。まだ、疲れが抜けきっていなかったのだろうか。ペルセの体は自然と、ベッドに横たわっていく。
「…ハイーラさん、マールさん…」
挨拶だけはしなければ。
閉じそうな瞼を擦りながら、何とか声を絞り出す。
「おやすみなさい…」
もう、瞼を開けていられなかった。
ペルセはそれだけ言うと、瞼を完全に閉じきった。
「…ホント、あんたってとんでもない拾いものをしたのね。改めて考えるとさ」
「ね〜…私も、予想外だよ〜…」
ペルセが意識を手放す直前、二人のそんな会話が聞こえてきた。しかし、もはや意味を理解することはできない。
この日の医務室の夜は、更けていったーーー。




