暗闇に見えた一筋の光ー差別なき悪魔ー
マールの一言は、よく意味が分からなかった。
悪魔なら誰もが持ってる、と言っていたが、ダスノムにいた者達は、オーレン含めて、誰一人としてその話をしてくれたことはなかったし、そんな力を持ってるとも言ってなかった。
「…私も、周りも、そんなの持ってなかった、よ…?」
「ん〜…そういう世界も、あるものかもね〜…」
マールは再び、手を動かし始めた。髪の間を指で梳かれるのが、不思議と心地よい。
しかし、マールの声色は、少し戸惑っているようだった。
魔力がある、というのが普通なのだろうか。ダスノムでは、そんなもの話題にあがったことすらない。
「キミさ〜、生まれはどこなの〜?」
「ふぇ…?」
「私、逆に魔力がない世界ってのを、聞いたことがなくてね〜」
マールは心底不思議そうな声色で尋ねてきた。
自分の言ったことは、そんなにおかしなことなのか。
いやそれ以前に、自分の生まれを、ここで言って良いのか。
ーーーまた、あの店の時の繰り返しに、ならないだろうか。素直に答えたら、また、酷い目に合わされるのではないのかーーー
「…まぁ、言いにくいなら、無理に聞き出す気はないよ〜」
ペルセが葛藤していると、マールは手を止めること無く言葉を発した。…自分の顔を見てないだろうに、困惑を見透かされているような気がした。
「ただね〜…」
マールは動かしていた手を再度止めた。さらに、なにか言いたげに言葉を紡ごうとしている。ペルセの背後で、小さく唸っているような声をあげていた。
一体、何を言うつもりなのか。
「…私も〜、正直、ここの悪魔達に疎まれてる、っていうか〜…半ば拒否、されてる側、だからね〜。キミが言いにくい理由も、なんとな〜く分かるんだよね〜」
ーーー相手は、自分の言ってる内容を、分かっているのか。
拒否されてる?町の悪魔達に?それを、こんな軽口のごとく扱えるものなのか。
ペルセには、それを理解することができなかった。しかし同時に、何となくではあるが、親近感がわいた。
「あの…えと…」
「ん〜?」
あの店のときとは違う。店では、大人の店員が目の前にいて、自分の目を見つめて、早く答えろと言わんばかりに質問してきていた。
今は、その時と比べて、全く焦らせてこない。マールは手を動かさず、のんびりした調子で、背後で待っている。
だから、言えた。
「…ダス、ノム…」
「…ん〜?ダスノム?」
「…うん…」
再度の静寂。マールは、手を止めたまま黙りこくっている。
店の時は、この一言で雰囲気が冷たくなった。…マールでも、そうなのか。
「…なるほど〜」
しかし、背後から聞こえてきたマールの声の温度は、先程と全く変わっていない。手は止まったままだが、特にまとう空気も変わらなかった。
「あそこに住んでる悪魔がいる、ってのは聞いたことがあるけど〜…本当だったんだね〜」
「…あの…何も、しないの…?」
「…………へ?」
あまりに態度が変わらないマールに、ペルセは恐る恐る尋ねた。店と同じだったら、ダスノムの名前を出した途端、自分の意志など関係なく、話が進められてしまったからだ。
質問を受けたマールは、思わず間の抜けた声を出した。一瞬固まったようだが、すぐに手に力を込めてきた。
「きゃうっ…」
「そこの生まれだってんなら〜…余計に、キレイにしてやんなきゃいけないじゃ〜ん」
…何か別のスイッチを入れてしまったのか。マールが頭皮を擦る力が、強くなったような気がする。
…このあと、キレイにするというマールの口車に乗せられ、長時間洗われ続けることとなったーーー。




