当たり前ではない力ー魔力ー
…一体、何が起きているのか。
あれよあれよとされている間に、服を脱がされた。そして、体にタオルを巻かれ、湯気の立ちこめる空間にいた。
まるで、先程いた店の、シャワーのある部屋のようだ。しかし、あそことはまた違ったものがある。
「…これ、なんだろう…?」
あれは、大きな容器だろうか。明らかに、1人は平気で入れることができそうな、白色の器のようなものが置いてある。
別の場所に視線を向けると、色のついた容器がいくつか雑に置いてある。容器には何か書かれているように見えたが、字が小さく、何と書いてあるかは読めない。
「…なんだろう、ここ…」
「お待たせ~」
一人、首をかしげていると、素肌に大きなタオルを巻いたマールが中に入ってきた。
空間に漂う湿気で、マールの髪の毛も肌に張り付いている。しかし、マールに然程気にしている様子は見られなかった。
「じゃあ〜、とりあえずそこに座ろうか〜」
マールはそう言うなり、ペルセを近くにあった木の椅子に座らせた。
特段、椅子の座り心地がいいわけでもない。さらに、背もたれもないので、どこかによりかかることもできなかった。
呆然としていると、マールが小さい容器に水を貯めて持ってきていた。
「ちょっと熱いけど、ゴメンね〜」
そう言った次の瞬間、ペルセの頭上から、まるで叩きつけるかのように水が勢いよく降ってきた。
思わず、目を閉じる。その水は、あの店で浴びたシャワーと比べると、少し熱かった。
「さ〜て…それじゃあ…」
マールはそう言うと、緑色の容器を手に取り、その側面を押し潰すかのように力を込めていた。掌に、何か得体の知れない色の、ドロっとした液体が流れ出ている。
「ちょっ…それ、何…?」
「ん〜?シャンプーだけど〜?」
「しゃ、しゃんぷー?」
「そうだよ〜。女の子だもん〜、髪は特にきれいにしなきゃ〜」
若干引き気味になりながら聞いてきたペルセに対し、マールは平然と答えた。しばらくマールが擦り合わせているうちに、泡立ってきてるのが見えた。
シャンプーという名前は分かったが、それで一体自分の髪に何をするつもりなのか。
「ちょっと失礼するよ〜。泡が目に入ったら困るから、目は閉じといてね〜」
「え、あ、うん…」
とはいえ、警戒したところで、何もできない。言われるがままに、目を閉じる。
…自分の頭皮を擦られている感覚が、より鋭く伝わってくる。自分でも頭皮を洗う時に強く擦ることはあるが、マールの擦り方は、非常に優しいものだった。
「こんなになるまで痛めちゃって〜…。キミ、手入れとかあまりしてないでしょ〜」
「て、手入れ…?」
「絡まってきちゃったりとか〜、色々しちゃうじゃ〜ん」
マールはそう言いながら、ペルセの髪を一部束にし、髪についたゴミを払うかのように、指でなぞってきた。その感触も、視界を遮断したペルセには、とてもよく伝わってくる。
「ある程度レベルの高い悪魔なら〜、正直こういう面倒くさい手入れとかも魔力だけでなんとかなるんだけどね〜」
魔力ーーー。そういえば、ここにつれてこられる前にも、マールの口からその言葉が出てきた。
魔力というのものは、そんなに便利なものなのか。
「…ねぇ」
「ん〜?何〜?」
「…『まりょく』って、そもそも何?」
ペルセが質問をすると、マールは手を止めた。
マールが今、どのような表情をしているのかは分からない。しばしの、静寂。
「…あ〜〜〜〜〜〜〜…」
その静寂を打ち破ったのは、マールの大きな、しかし気怠そうなため息だった。
ーーー何か変なことを聞いてしまったのか。もしかしたら、聞いてはまずかったのか。
そんな不安を抱えながらも、ペルセは次の言葉をつむげずにいた。しかしーーー
マール「…まぁ〜、簡単に言っちゃえば〜…悪魔なら誰もが持つ、特有のエネルギーみたいなもの、かな〜?」
マールは拍子抜けするほどに普通に答えてくれた。




