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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第五章 ダスノム改善とその歪み
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父の名乗りとその違和感

 クロニオスがハイーラ達へ視線を向ける。身を寄せ合っていた二人は、思わず背筋を伸ばし、わざわざ座り直した。


 そんなに、緊張しなくてもよいのに。ペルセは、不思議そうに首を傾げ、二人を見つめていた。


「挨拶が遅れて済まない。ペルセの父のクロニオス、という者だ。娘が世話になってるようだな、礼を言う」

「え、あ、えっと、こ、こちらこそ…」


 クロニオスが軽く会釈をすると、ハイーラ達は慌てふためきながらも会釈を返した。


 その様子を、デメナはクスクスと笑いながら眺めている。


「そんなに畏まらなくてもいいんですよ?ただの、私の夫ですから」

「…お母さん…多分、二人とも聞こえてないと思う…」


 ペルセに聞こえてくる、ハイーラ達の胸の内の声は、困惑と焦りでいっぱいだった。そんな状況では、デメナの助言も多分聞こえていない。


 そんなに焦る理由は分からないが、少なくとも余裕はなさそうだった。


「…って…今、クロニオスって名乗られました?」

「あ?そうだが」


 一瞬の間を置き、ハイーラが顔を上げた。その顔には、冷や汗が滲んでいる。


 クロニオスは何の躊躇もなく答えているが、その返答を受けたハイーラの体が震えだした。

 恐怖。いや違う。ハイーラの胸の内にあるのは、極度の緊張だ。


「名前がクロニオス…そしてその見た目…まさか…!?」

「どうしたの〜?」


 ハイーラはクロニオスの顔を見つめながら、目を見開いて固まっている。その隣でマールが、そんなハイーラの眼前で手を振っている。


「…一体なんなんだ?」

「ふふっ…」

「おいデメナ。お前分かってんだろ」

「さぁ、何でしょうかね?」


 不満げなクロニオスと、楽しそうなデメナ。この二人と関わるようになって、時々見るようになった光景だ。

 ペルセはわけも分からず、オロオロとハイーラとクロニオスの顔を交互に見つめていた。


「あの…人違いだったら申し訳ないんですが…」


 ハイーラが恐る恐る、口を開いた。顔色が悪くなっており、その声は震えている。


「何だ?」

「もしかして…今の魔王様の治世になられる前の、後継者候補だった、クロニオス様…ですか…?」


 後継者候補。どういうことだろう。

 意味の分からない言葉が出てきて、ペルセは首を傾げていた。


 クロニオスは少し不満そうに、デメナの方へ視線を向けた。


「…おい。今のアスティアノの連中は、俺が後継者候補だったと認識してんのか」

「間違ってはいないでしょう?」

「間違いだらけだ」


 クロニオスはデメナの返答に、小さく舌打ちした。しかし、その反応が、ハイーラの顔色をますます青くしていることに、気付いていないようだ。


「ハイーラさん、顔色悪いよ…?」


 本当に、わけが分からない。ペルセは、青ざめてしまったハイーラに声をかけるが、ハイーラは声にならない声を口から漏らすだけで、反応してくれない。


「そ、そんな…まさか、本当に…!?」

「ハイーラ〜、ちょっとどうしたの〜…?」


 固まってしまったハイーラの肩を、マールが揺さぶっている。マールも緊張は隠せないようだが、さすがに隣でハイーラが固まっとあっては、動けたようだ。


「…マール…!!あんた、知らないの…!?」

「何が〜?」


 ハイーラは錆びた機械のような動きで、マールの方に顔を向けた。


 一体、何なのだろうか。自分の父の名前に、そんなスゴい秘密でもあるのだろうか。当人であるクロニオスも、不思議そうに首をひねっている。


「クロニオス様といえば、歴史の教科書にも載ってるような、偉大な悪魔の一人じゃない…!!」


 ハイーラのその発言が、医務室の空気を一変させた。

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