親バカクロニオス
「あら…思ったよりもお早い到着でしたね」
デメナは立ち上がると、躊躇なく扉の前へと向う。
ペルセが横にいるハイーラ達に背を向けると、先ほどデメナが来た時以上に、緊張を隠せていない。不自然なほどに背筋が伸びているし、冷や汗もかいている。
ーーー優しい父なのだから、そんなに怯えなくてもいいのに。ペルセは内心、少し不満だった。
「デメナ。いるんだろ。開けるぞ」
「こちらから開けますので、少々お待ちを。ここにいるのは、私だけではないんですよ」
父・クロニオスの低い声が響く。普通に話してるだけなのに、医務室の空気がビリビリと震えてる気がする。相変わらずの低音だ。
それを受け、ハイーラ達の体が、余計に固まった。
デメナが扉を開けると、その先には父親であるクロニオスがいた。ただし、大きすぎて、屈まないと医務室に入れないようだった。
「随分と早かったですね。事後処理が一段落ついたので?」
「いいや…。だが、サトゥニアの野郎が、『自分がいりゃ回るから、とっとと行け』とかぬかしやがって、半ば追い出されたんだ。あの野郎…」
デメナの問いに、クロニオスはやや不満そうに答える。その不機嫌さが伝わったからか、ハイーラとマールは身を寄せ合っている。
デメナはクロニオスを、ペルセの元へと案内する。
父まで来てくれた。それが、たまらなく嬉しい。自然と、ペルセの口角も上がっていた。
「お父さん!!」
「…ペルセ?」
呼び掛けると、クロニオスの表情が一変する。不機嫌そうな顔だったのが、少しだけ優しい笑顔になった。
「…目を覚ましたんだな、ペルセ」
クロニオスはペルセの横に座り、その頭を撫でてきた。クロニオスの隣に、デメナも腰掛けた。
いつも通りの、大きな手。ゴツゴツしていて、自分の頭を掴めそうなほどに大きい手。そんな父の手に撫でられるのも、大好きだった。
「話は聞いた。俺からも色々と言いたいことはあるが…」
クロニオスはそこまで言うと、隣に座るデメナへ視線だけ向けた。デメナは優しく微笑みながら、クロニオスを見つめ返すだけだった。
「…よく頑張ったな、ペルセ。さすが、俺の娘だ」
「や〜、お父さん…恥ずかしいよっ」
クロニオスはそう言いながら、ペルセに頬擦りをする。その表情は、緩みきっている。
ペルセも、口では嫌がったが、内心とても嬉しかった。不器用な父がここまでしてくれることは、滅多にない。
「あらあら。仲良しですねぇ」
「…どうせお前も、抱擁くらいしてんだろ?このくらいやらねえと、父親の立つ瀬がねぇよ」
デメナは楽しそうに笑いながら、クロニオスをからかった。しかし、クロニオスはそのからかいを正面から打ち返してみせた。
ーーー以前なら、クロニオスはペルセにとって少し怖かったし、デメナにからかわれたら動揺していた。だが、今ではすっかり、自分にとっては優しい父親だ。
これが、親バカというものなのか。
「…っと…ペルセばかりにかまけてもいられねぇな」
クロニオスはそう言うと、向かい側に座るハイーラとマールへ視線を向けた。
二人は、呆然とした様子で、クロニオス達を見つめていた。何か、おかしなことでもあったのだろうか。
しかし、少し考えたら、ペルセでも分かった。
クロニオスようなゴツい男が、自分のような子供に頬擦りをするなんて、なかなか見られる光景ではない。
ーーー驚くのも、無理はないかもしれない。
「そういえば、この方の紹介がまだでしたね」
デメナもクロニオス同様、ハイーラ達へ視線を向けた。




