母への報告
三人の視線が、扉に向く。
その向こうにある気配を、ペルセは敏感に感じ取った。
「デメナです。入っても大丈夫ですか?」
その声に、ハイーラ達の背筋が伸びる。同時に、ペルセは満面の笑みを浮かべた。
母が来た。夢ではなく、現実で会える。
「ど、どうぞ…!」
ハイーラがどもりながらも、扉の向こうにいるデメナに返事をする。
その直後、医務室の扉がゆっくりと開いた。
「お母さん!!」
扉の向こうにデメナの姿が見えた瞬間、ペルセは歓喜の声をあげた。それを聞いたデメナは、驚いたように目を見開いた。
「…ペルセさん、目を覚まされたんですね」
デメナはペルセの寝ているベッドに近寄ってきた。
駆け寄りたい。抱きつきたい。
しかし、心がそう思っていても、ペルセの疲弊しきった体は、動いてくれなかった。
デメナが近づくにあたり、ハイーラは向かい側にいるマールの隣へと移動した。
「ちょっとマール!…そっち詰めなさい!」
「え〜…狭い〜…」
「うっさい!母娘の時間なのよ!?」
ペルセの背後でヒソヒソ話してるつもりのようだが、二人の会話は丸聞こえだった。だが、ペルセにとって、そんなものは気にもならない。
自分の近くの椅子に、デメナはゆっくりと腰かけた。そして、腕を広げてきた。
「…ペルセさん…よく、頑張りましたね」
「お母さん!!」
ペルセは勢いよく、母に抱き着いた。デメナも、ペルセの体を受け止め、強く抱き締めた。
やっぱり、心地良い。マール達の抱擁とは、また違った温かさがある。抱きしめる力が強くて、少し苦しくはあるが、その苦しさが、今の母との時間を現実だと認識させてくれた。
「大変だったでしょう?」
「うん…!私、二人助けるために、イアノお姉ちゃんを手伝いたくて、頑張ったの!!アモディエナさんとの約束も守るために、何とか抑えるのが、大変だったけど…。でも!ちゃんとできたよ!!」
あの時は、怖かった。吐きそうになるほど、嫌な感情が聞こえてきていた。でも、それでも。傷付けられたハイーラ達を守るため、イアノを助けたくて、頑張ったのだ。
デメナはその話を、ペルセの頭を優しく撫でながら、笑顔で聞いてくれた。
「えぇ。イアノさんからも聞いていますよ。…大分、力の扱い方も分かってきたようですね」
「ちゃんと鍛錬の成果、出せたよ!!」
ペルセはデメナの顔をまっすぐに見つめる。
本音を言えば、デメナにもその成果を見てほしかったくらいだ。
「でも、途中で疲れちゃったんだ…」
「そこは、まだこれからですね。今後の課題としましょうか」
「うん!!」
シュンとしてしまったペルセを、デメナは全く否定しなかった。
体力が最後まで持たなかったことだけが、ペルセの中で心残りだった。これからの鍛錬で、体力を身につけよう。ペルセはひそかにそう決心していた。
「そういえば…」
デメナは抱擁を解きながら、何かを思い出したようだ。ペルセは不思議そうに、首を傾げる。
「この後、お父さんも、来ますよ」
「えっ!?」
その発言に、ペルセの声と、後ろにいるハイーラの声が重なった。ハイーラは、驚きと若干の恐怖を隠しきれない様子で、少し顔を青くしている。
そういえばハイーラ達は、母とは画面越しとはいえ話をしたことがあるが、父とは会ったことがなかった。それもあるのかもしれない。
「ハイーラさん大丈夫!お父さん、ちょっと強面だけど、優しいから!!」
ペルセはハイーラの方に視線を向け、励ました。だが、ハイーラの様子は変わらない。隣に座るマールも、緊張からか、顔が強張ってるように見える。
そんな空気の中、再び扉がノックされた。




