イアノの報告
イアノたちは、玉座の間の扉を開いた。相変わらず、その扉は重い。
扉の先にあったのは、円卓を囲む幹部達、及びアモディエナの部下達が中心となって、書類仕事に追われてる姿だった。その机の上には、書類の山が積み上がっていた。
「私が用事のある相手は、アモディエナ様ですので。それでは」
「…えぇ。ありがとうございました」
バルディはそれだけ言うと、そのままアモディエナの元へと向かった。
イアノはバルディを見送り、自分の目的地へと、視線を向けた。魔王である、サトゥニアへ。そのまま、軽やかな足取りで歩いていった。
サトゥニアも、アモディエナ同様、書類の山に追われている。だが、そこに焦りは感じられない。アモディエナを含めた事務処理部隊が、余程優秀なのだろう。
「…魔王様。お忙しい所、失礼致します」
イアノが声をかけると、サトゥニアは手を止め、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
「お前か。…報告を聞こう」
「その前に、デメナ様とキマエさんもお呼びしてくださいますか?」
自分一人だけの報告で済ませるつもりはない。同席していたデメナとキマエからも、報告を聞いてもらうべきだ。
サトゥニアはその意図を察したのか、仕事をしているデメナとキマエを呼び付けた。
呼ばれたデメナとキマエは、イアノがいることで、用件を察したようだ。
「…思ったよりも早かったですね、イアノさん」
「やはり、お見通しですわね」
分かっていた。キマエはともかく、デメナには見破られていたであろうことは。だが、それでもデメナは、具体的には言ってこないのが、上司としての気遣いなのだろう。
「さて…リドンと話をした結果は、どうだった?」
「結論から申し上げますと…私をもってしても、説得は不可能でしたわ」
イアノは苦々しく表情を歪めながら、結論を述べた。サトゥニアはそれに対し、眉をひそめた。
「色々と、お話をしましたの。事実を陳列し、キマエさんから実例も示し、私からの想いもお伝えしましたわ。それでも、リドンさんの思想は、一切変わりませんでした」
イアノは淡々と報告する。その報告に、感情を入れる必要はない。一方のサトゥニアは、その報告に口を挟まず、静かに聞いているだけだった。
「説得の余地は、無しか…」
「個人の情でワガママを言ったのに、成果を出すことができず、申し訳ありませんでした」
イアノはそう言うと、深々と頭を下げた。
あの対話は、本来ならば設けるべきではなかった、非常に危険な行為だ。だが、イアノはそれでも、個人的にリドンと話をしたかった。
ーーー結果として、決裂がもう元に戻らないことを、確認させられてしまったが。
「気にしなくて良い。…むしろ、よく報告してくれた」
だからこそ、サトゥニアは穏やかだった。まるで、最初からこうなることを予見していたかのように。
すると、サトゥニアはデメナ達へと視線を向けた。
「デメナ、キマエ。同席していた貴様らから、何か補足はあるか」
サトゥニアにそう言われ、デメナは口を開かなかった。代わりに、首を静かに、横に振るだけだった。
「特にございません。マルス家当主として、イアノの報告は、嘘偽りないものであると保証します」
キマエは厳かな口調で、そう述べた。
そこまで重苦しくしなくてもよいのだがーーーそこはキマエらしく、武人としての、そして当主としての誇りがあるのだろう。
「…イアノ、報告ご苦労だった。あとは、我々に任せろ」
サトゥニアはそれだけ言うと、書類の方へ視線を戻す。イアノはそれを見て、サトゥニアの元から引き下がった。
それにつられるように、デメナとキマエも引き下がろうとした。
「デメナ。お前は少し残れ」
しかし、サトゥニアはデメナを呼び止めた。
ーーー一体、何なのだろうか。気にはなるが、イアノはそのままサトゥニアの元を離れ、書類処理の手伝いをしに、アモディエナの元へと向かった。




