表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第五章 ダスノム改善とその歪み
PR
142/150

実務的な、不器用な気遣い

 イアノは慌てて、涙を拭った。そして、声のする方へと振り向いた。


 そこに立っていたのは、アモディエナ直轄の調査部隊の一つ、魔界災害調査管理部の部長を務めるバルディだった。その手には、重厚な書類が握られている。


 アモディエナの元への報告に行くのだろうか。だとするなら、止めてしまうのもよろしくない。


「…大したこと、ありませんわ」


 精一杯のやせ我慢。このまま行ってくれればいい。

 しかし、バルディはそうしてくれなかった。


 バルディは静かにため息をつくと、懐からハンカチを取り出した。


「その顔で言われても説得力がありませんよ。顔を少し冷やされては?酷い顔をしてますよ」


 ーーーなかなかな言い草だ。女性に対して面と向かって酷い顔と言う、とは。


 だが、手鏡で自分の顔を確認してみると、確かに腫れぼったくて、いい顔をしているとはいえない。


「女性相手にその言い方はどうかと思いますわ。…でも、助かります」


 バルディはそう言われ、不思議そうに首を傾げる。この男、仕事面では有能なのに、そういった面では死んでるところがある。


 イアノは軽くため息をつき、素直にハンカチを受け取った後、洗面所へと向かう。


 洗面所に到着して、そこにある鏡を見ると、やはり赤くなっていて、酷い顔だ。イアノはバルディから受け取ったハンカチを水で冷やし、自身の顔へ押し当てる。


 ーーー冷たくて、心地良い。

 その冷たさで、段々感情も落ち着いてきた。


 リドンのことは、確かに悲しいし寂しい。だが、もう優しかった昔のリドンはいない。今、あの尋問室にいるのは、もはやただの罪人だ。


「…うん」


 再び顔を見ると、大分腫れぼったさが引いている。これなら、酷い顔と言われることもないだろう。イアノは、先程の場所に戻った。


 てっきり、バルディはもう立ち去ってるものとばかり思っていた。でも、彼はその場に留まったまま、手に持った書類を確認しているようだった。


「バルディ」


 イアノはバルディに、静かに声をかけた。それに気付いたバルディは、書類から視線を外し、イアノの顔を見つめてきた。そして、わずかに口角を上げた。

 そして、イアノがお礼を言う前に、バルディが口を開いた。


「…元の、美しいあなたの顔に戻ったようですね。何よりです」

「気にかけてくれて、ありがとうございます」


 下手なお世辞を述べるバルディに、イアノは頭を下げた。


 ーーー気遣いなのか、本気でそう思ってるのかは、その表情からは分からない。バルディは、深層の魂の揺らぎがまるでないため、イアノの能力を持ってしても感情が読み取れないのだ。


 だが、そんなことはどうでもよい。イアノは頭を上げると、先ほど使ったハンカチをヒラヒラとバルディに見せる。


「…後で、洗濯して返しますわ」

「その程度なら、返さなくても構わないのですが…」

「ゴエティフス家の一員として、そのくらいの筋は通させてくださいまし」


 ハンカチを懐にしまうと、イアノはバルディに笑いかけた。一方のバルディは、呆れたように肩をすくめつつ、書類をしまう。


「…まぁともかく…。私も、玉座の間に用があるのです。早めに行きましょうか」


 バルディはそれだけ言うと、スタスタと廊下を歩きだした。


 自分を気遣ってるつもりなのだろうか。だとするなら、不器用すぎる。

 ーーーだが、その不器用さも、バルディらしかった。イアノは静かに笑うと、その後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ