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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第五章 ダスノム改善とその歪み
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リドンへの弔辞

 ーーー玉座の間へと向かう廊下にて。

 仄暗い通路を、デメナとキマエが歩いている。二人の後ろを、イアノは歩いていた。


 三人の足音だけが、廊下に響いている。静かで、しかし物々しい雰囲気だった。


 そんな中で、イアノだけが表情を歪めていた。


「…はぁ…っ…」


 油断すると、寂しさと虚無感に飲まれそうになる。これから玉座の間に戻って、魔王であるサトゥニアに報告をしなければならないと言うのに。二人の耳には聞こえないほどに小さいため息が、勝手に漏れてしまっていた。


 自然と、イアノの歩くペースが落ちてしまう。しかし、前を歩く二人は、気付いていないようで、距離が開いていくばかりだ。


「…デメナ様、キマエさん」


 イアノは小さい声で、二人を呼ぶ。その呼び声も、何だかやたらと響いた気がする。デメナ達は歩みを止め、こちらを振り向いた。


「先に行ってて、くださいますか…?後で、追いつきます、から…」


 言いながら、イアノの声は震え始めていた。すでに、感情が臨界点に達しそうだった。

 声色から、それがばれてしまっただろう。特に、魂の揺らぎから感情を読み取れるデメナ相手には、隠せるわけがない。


「…分かりました。あとで、必ず玉座の間に来てくださいね」


 しかし、デメナは何も追求してこない。不思議ではあるが、今はその対応が逆にありがたかった。


 デメナはそれだけ言うと、キマエと共に先へ行ってしまった。キマエは不思議そうに首を傾げてはいたが、特に追及してくることなく、デメナの後を追った。


「…はぁ…っ…」


 二人の姿が見えなくなると、イアノは目元を手で覆いながら、壁に寄りかかった。


 リドンを、止められなかった。かつては穏やかで、優しくて、何でも知っていて。家の誇りや、礼儀などを教えてもらった、好々爺だったリドン。


 ーーー一体、いつの間にあんな風になってしまったのか。もし、自分がもっとリドンを気にかけてれば、違ったのだろうか。


 気づいた時には、もう、リドンは悪道に落ちてしまっていた。ゴエティフス家の後継者として、切り捨てざるを得ないほどに。


「…うぅっ…」


 目頭を押さえても、嗚咽が漏れ出した。肩が上下し、涙がこぼれ落ち始めた。


 小さい頃の自分と、リドンとの思い出が走馬灯のように蘇る。イタズラをして叱られた記憶、勉強ができて褒められた記憶、一緒に食事をした記憶、笑い合った記憶。


 ーーー捨てたくなかった。だが、その思い出の相手を、捨てなければならなかった。


「…どうしてですの…リドンさん…」


 そう問うても、答えてくれる者は存在しない。ただ虚しく、静かな廊下にその声が飲み込まれるだけだった。


 家の看板を保つために、魔界の秩序のために。リドンのやったことへの責任を取らせることは、必要だ。そんなことは、分かっている。

 しかし、感情はついてこない。リドンの姿は、かつて自分も慕っていた好々爺の姿のままだった。なのに、中身は別人のようだった。


 ーーー優しかったリドンは、もういない。あそこにいたのは、もはや名前と姿だけを似せただけの、ただの反逆者だ。


 もう、いないのだ。


「ぐぅぅっ…!ふぐっ…!!」


 息が乱れる。肩が大きく上下し、漏れる嗚咽が激しくなる。

 完全な別れが、たまらなく悲しい。本来ならば、犯罪者との別れを惜しむなど、不要なものだろう。


 ーーーだが、今のこの瞬間だけでいい。

 あの、優しかったリドンとの、別れを告げる時間が欲しかった。


「…イアノ?どうしたんです、こんな場所で」


 すると、背後から聞き覚えのある、穏やかな男の声がした。

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