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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第五章 ダスノム改善とその歪み
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久遠の別れ

 しばしの沈黙が流れる。

 イアノはリドンを無言で見つめ、リドンは言い返せずに震えている。

 デメナは変わらず、壁に寄りかかったまま、全体を俯瞰していた。


 気まずさは感じない。だが、このまま進まないのももどかしい。キマエが口を開こうするより先に、イアノが言葉を発した。


「…私は、哀しいのですわ。私が子供の頃、色々教えてくださった、あの優しくて穏やかなリドンさんが…このよううになってしまったのが…」


 そう言いながら、イアノは顔を伏せた。その表情は、哀しげであり、どこか寂しそうでもある。


 やはり、小さい頃からお世話になってた相手だからか、イアノにとっても思うところがないわけでもないらしい。


「私は変わっていません。むしろ、ダスノムの連中を助けようとする愚者達に、あなたが毒されたとすら思っています」


 だが、それを見てもリドンは揺らがなかった。

 本気で思ってるのか、それともただ意固地になっているのか。もはや、どちらとも言えなくなってしまっていた。


 しかし、それが決定打だったようだ。


「…そう、ですか」


 消え入りそうな震え声で、イアノが呟いた。

 これは、止めに入るべきか。だが、イアノはその場から立ち上がると、背後で尋問をずっと見ていたデメナの方へ向かった。


「戻りましょう。デメナ様」

「…もう、終わりでいいのですか?」


 デメナは壁から背を離し、イアノの方に視線を向けた。

 キマエもイアノに合わせて席を立つ。もう、話し合いは終わりだ。


「お嬢様!話はまだ…!!」

「お黙りなさい」

「なっ…!?」


 未だ文句を言おうとしているリドンに、イアノは冷たく言い放つ。


 完全なまでの拒絶。今まで見せなかったその感情を、ついに見せてきた。


 リドンとしても、予想外だったのだろう。イアノのあまりに冷たい言い方に、衝撃を受けて固まっていた。


「…同じゴエティフス家の悪魔として、個人的にお話したら、説得の余地もあるかと思ったのですが…」


 イアノはそのまま、リドンに背を向ける。声は冷たいが、その表情は若干、泣きそうなものだった。


 ーーー切り捨てなければならない。理屈ではそう分かっていても、情はついてこない。ここは、次代当主として、乗り越えるべき課題ではあるだろう。

 だからこそ、キマエはイアノを慰めようとはしなかった。


「…今後、あなたをゴエティフス家の悪魔だとは認識しませんわ。このやり取りが、私があなたを格の高い悪魔として扱う最後の機会だ、と思ってくださいまし」


 ドアノブに手をかけたイアノはそう言い切ると、扉をゆっくりと開けた。


「…さよならですわ、リドンさん。…永久に」


 ドアの軋む音にもかき消されそうなほどな小声で、イアノはそれだけ言った。その声は、悲しみに満ちていた。


 ーーー辛くないわけはない。だが、イアノなりに切り捨てる覚悟はあるようだ。


 そう思いながら眺めていると、イアノはそのまま、デメナと共に外へ出てしまった。


「お嬢様…!なぜ…!!」

「…なぜ、か…」


 リドンは本気で分かっていないようだ。キマエはそれを見て、大きくため息をつく。


 キマエも扉の前まで歩くと、背を向けたまま、リドンの方に視線だけ向ける。


「…あんたがそれを知る必要はない。あんたはもう、今の地位に戻ることはできないんだから」

「なに…!?」

「一度堕ちたら、這い上がる資格はない。…あんたの言った理屈だ」


 それだけ言うと、キマエはリドンの返事も聞かず、部屋を出て、尋問室の扉を閉めた。

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