久遠の別れ
しばしの沈黙が流れる。
イアノはリドンを無言で見つめ、リドンは言い返せずに震えている。
デメナは変わらず、壁に寄りかかったまま、全体を俯瞰していた。
気まずさは感じない。だが、このまま進まないのももどかしい。キマエが口を開こうするより先に、イアノが言葉を発した。
「…私は、哀しいのですわ。私が子供の頃、色々教えてくださった、あの優しくて穏やかなリドンさんが…このよううになってしまったのが…」
そう言いながら、イアノは顔を伏せた。その表情は、哀しげであり、どこか寂しそうでもある。
やはり、小さい頃からお世話になってた相手だからか、イアノにとっても思うところがないわけでもないらしい。
「私は変わっていません。むしろ、ダスノムの連中を助けようとする愚者達に、あなたが毒されたとすら思っています」
だが、それを見てもリドンは揺らがなかった。
本気で思ってるのか、それともただ意固地になっているのか。もはや、どちらとも言えなくなってしまっていた。
しかし、それが決定打だったようだ。
「…そう、ですか」
消え入りそうな震え声で、イアノが呟いた。
これは、止めに入るべきか。だが、イアノはその場から立ち上がると、背後で尋問をずっと見ていたデメナの方へ向かった。
「戻りましょう。デメナ様」
「…もう、終わりでいいのですか?」
デメナは壁から背を離し、イアノの方に視線を向けた。
キマエもイアノに合わせて席を立つ。もう、話し合いは終わりだ。
「お嬢様!話はまだ…!!」
「お黙りなさい」
「なっ…!?」
未だ文句を言おうとしているリドンに、イアノは冷たく言い放つ。
完全なまでの拒絶。今まで見せなかったその感情を、ついに見せてきた。
リドンとしても、予想外だったのだろう。イアノのあまりに冷たい言い方に、衝撃を受けて固まっていた。
「…同じゴエティフス家の悪魔として、個人的にお話したら、説得の余地もあるかと思ったのですが…」
イアノはそのまま、リドンに背を向ける。声は冷たいが、その表情は若干、泣きそうなものだった。
ーーー切り捨てなければならない。理屈ではそう分かっていても、情はついてこない。ここは、次代当主として、乗り越えるべき課題ではあるだろう。
だからこそ、キマエはイアノを慰めようとはしなかった。
「…今後、あなたをゴエティフス家の悪魔だとは認識しませんわ。このやり取りが、私があなたを格の高い悪魔として扱う最後の機会だ、と思ってくださいまし」
ドアノブに手をかけたイアノはそう言い切ると、扉をゆっくりと開けた。
「…さよならですわ、リドンさん。…永久に」
ドアの軋む音にもかき消されそうなほどな小声で、イアノはそれだけ言った。その声は、悲しみに満ちていた。
ーーー辛くないわけはない。だが、イアノなりに切り捨てる覚悟はあるようだ。
そう思いながら眺めていると、イアノはそのまま、デメナと共に外へ出てしまった。
「お嬢様…!なぜ…!!」
「…なぜ、か…」
リドンは本気で分かっていないようだ。キマエはそれを見て、大きくため息をつく。
キマエも扉の前まで歩くと、背を向けたまま、リドンの方に視線だけ向ける。
「…あんたがそれを知る必要はない。あんたはもう、今の地位に戻ることはできないんだから」
「なに…!?」
「一度堕ちたら、這い上がる資格はない。…あんたの言った理屈だ」
それだけ言うと、キマエはリドンの返事も聞かず、部屋を出て、尋問室の扉を閉めた。




