キマエの横槍
「先程からお前の言ってることを整理すると、一度でもダスノムに行った連中は永久の犯罪者だから、救う必要はない。むしろ、そんな犯罪者集団を我々が救えば、善良な民に害が及ぶ。それで間違いないな?」
「…えぇ。そうです。それが事実ですよ、キマエ卿!」
キマエは己の理解を淡々と語る。
イアノは何も言わなかったが、リドンは勝ち誇ったように言い放った。
すでに勝ったとでも思ってるのだろうか。だとするなら、随分おめでたい頭をしている。本当に、ゴエティフス家の幹部なのか。
内心呆れつつ、キマエは言葉を続ける。
「あんたの論理だと、ダスノムに一度でも行った者は、二度と這い上がることを許されない。なぜなら、一度ゴミとして廃棄された側だから、となるが…それも、間違いないのか?」
「えぇ。間違いありません。それが、その魔界の常識です!」
常識、とまで言い切られた。
確かに、そうなのかもしれない。半端者の貴族の間では、の話だが。
だが、キマエの確認はまだ続いた。
「…たとえ、その者に一切の非がなかったとしてもか」
これだけは、確認しておかなければならない。もし、何の罪もない者まで同じ扱いをするのなら、この男は確実にーーー
「そんな者は存在しません。空想での話はやめていただきたい」
しかし、キマエのほんの少しの希望さえも、潰されてしまった。
思わず、大きなため息をついてしまった。
「…先程から、何を言いたいのですか?」
リドンが少し、苛ついてきているようだ。ならば、こちらも早めに結論を言ってしまおう。
キマエはそう考え、ゆっくり口を開いた。
「大した話ではない。俺の部下にもいるんだ。過去、ダスノムに堕ちていた者がな」
これは、事実だ。
マルス家の部隊の中に、確かに存在している。
ただ、それだけの話をしただけに過ぎない。にも関わらず、目の前にいるリドンは、大きく目を見開いている。
すると、少し考え込んでいたイアノが、キマエに視線を向けてきた。
「確か、以前私にも紹介してくださいましたわね。あの御三方のことですか?」
「…何だ、覚えていたのか…」
「話題に挙げられて思い出しましたわ。でも、そんなに昔の話でもありませんわよ?」
イアノとのやりとりを聞いて、リドンは口をあんぐりと開けている。
キマエはリドンに視線を向け、さらに言葉を紡いだ。
「…聞いた通りだ。ウチの、マルス家の一員に、三人、ダスノムからのし上がってきたヤツがいる。そのことについて、あんたはどう思う?」
煽りでもない。罵倒でもない。
純粋に、気になっただけだ。
しかし、リドンは口をモゴモゴさせるだけで、意味のある言葉を発してこない。
ーーーまぁ、こうなるだろう。
概ね、予想通りの反応だ。決定的に、自分と認識と矛盾した実例を突きつけられてるのだから。
リドンはしばらく唸り、ようやく言葉を紡ぎ始めた。
「…犯罪者共が、実力で這い上がれるわけがない…!何か、陰謀が…!!」
「あ?」
さすがに、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
キマエの喉から思わず、低くドスのきいた声が出てしまった。
リドンの肩が大きく震える。
なぜか、隣にいるイアノも、少し怯えてるように見える。
しかし、キマエは止まらなかった。
「…お前がどんな考えしてようが勝手だがな。少なくとも、ウチの部下は、俺の下でも厳しい鍛錬も超えてきた、根性のある連中だ。そこに、生まれだとか育ちだとか関係ねぇよ。胆力があるかないか、それだけだ。うちの部下を何も知らねぇお前が、その努力を否定するな」
思わず、一気に言い切ってしまう。
かなり、不愉快だった。叫ばなかっただけ、自分を褒めてやりたい。
部下をこんな形で愚弄されるのは、どうにも我慢ならない。そこは、自分も当主としてまだ未熟な部分だ。
「…長く話しすぎた。俺からの話は、以上だ」
これ以上やると、主導権がどこにあるか分からなくなってしまう。
キマエはそれだけ言うと、口を閉ざした。




