リドンvsイアノ
キマエは第一尋問室の扉の前に立つ。
入る前から、どこか物々しい雰囲気を放っている。
しかし、キマエに躊躇いはなかった。ドアノブに手をかけ、ゆっくりとその扉を開ける。
中に入ると、取調室の中に、椅子へ縛り付けられたリドンと、そこに向かい合うように座るイアノ、そしてイアノの背後の壁に寄りかかり、見守っているデメナの姿があった。
キマエが中に入ると、奥の席に座るイアノと目が合った。
「あら…キマエさん」
イアノの何気ない一言だった。しかし、そのひと言で、背中を向けていたリドンが、錆びた機械のような鈍い動きでゆっくりとこちらを向く。
「悪いが、俺も尋問に同席させてもらう。…メインはお前だ、それで構わないな?」
「…えぇ。それなら心強いです。助かりますわ」
そんなリドンの視線など、気にもならない。キマエはリドンの横を通り過ぎ、イアノの隣に腰掛けた。
イアノはキマエが席についたことを確認すると、穏やかに口を開いた。
「…改めて、お聞かせいただきますわ、リドンさん」
リドンはイアノのその言葉に、飛び上がりそうなほどに驚いていた。自分という存在に怯えてるようにも見える。
ーーー理解不能だ。
サブリナに怯えるのなら、まだ分かる。だが、自分はリドン相手に、直接何かしたわけでもない。
イアノはそんなリドンの様子を見たうえで、さらに言葉を紡ぎ始めた。
「あなたは、魔王様が行おうとしているダスノム変革、再開発計画には、断固反対だ、と。その認識で、お間違いありませんわね?」
イアノがリドンを真っ直ぐに見ながら尋ねる。
すると、怯えが消え、リドンの顔色が変わる。
「…お嬢様。むしろ、あなたほどのお方が、あんなふざけた計画に賛成されるのですか?」
その声色には、迷いはなかった。やはり、本気でそう考えているようだ。
その返答を聞いた、イアノの表情が冷たくなる。背後で見ているだけのデメナも、眉をわずかに動かしていた。
「…ふざけた計画、とは?」
「ふざけてるとしか言えませんよ。自らの罪で堕とされた連中を、魔王様が直々にお救いし、さらに待遇まで良くするなど、犯罪者集団の守護と同義です。そんな計画に、賛成されるというのですか」
よく聞く、貴族連中の論理だ。特に、家柄や看板のみで判断する、半端者の貴族の論理。
しかし、リドンは半端者の貴族ではない。筆頭名家・ゴエティフス家の幹部だったはず。
キマエは無言でイアノとリドンのやり取りを見守っている。無論、納得はしていないが、今はリドンに言わせておくべきだ。
「ダスノムは、魔界のゴミの終着点。ダスノムに行き着くのはゴミしかいない。…すなわち、ダスノムに一度でも行った者は、ゴミなのですよ…!!」
論理が飛躍している。だが、本人の中では極めて合理的で、正しい考えなのだろう。
そして、そこがリドンの論理の根幹ともいえる部分。ゆえに、リドンにも熱が入っているようだった。
「…そうですか」
対照的に、イアノの方からは熱が急速に引いているように見える。
ーーー大分、成長したものだ。
まだここで働き始めた時は、もっと感情で動いていたのに。ゴエティフス家後継者としても、デメナ直属の配下としても、立派になっている。
デメナの方へ視線だけ向けると、デメナも嬉しそうに口角をわずかに上げていた。
「あなたは、その価値なきゴミを救い、それが要因で苦しむ民が見えていない!!ゴミに荒らされ、汚され、苦しむ民の姿を、想像できてないんだ!!」
リドンが大声で叫ぶ。しかし、縛られたままで必死に叫ぶその様子は、非常に滑稽なものだった。
ダスノムはゴミの溜まり場で、そこにいる者は永遠の犯罪者。だから、助ける必要はない。その理論は、理解はした。
だからこそ、一つ言いたいことができた。
「…少し、口を挟んでよいか」
キマエのその一言で、リドンとイアノの視線が、こちらに向いた。




