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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第五章 ダスノム改善とその歪み
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反乱軍、完全制圧

 サブリナは一歩一歩、確実に歩みを進めている。踏みしめる度に、大きな地響きが起こっていた。

 キマエはサブリナのペースに合わせて歩きつつ、その様子を後ろから観察していた。


 大規模な戦争であっても、サブリナが魔力に頼ることは、キマエの経験上なかった。


 だが、背中を見ていても分かる。今のサブリナは、キマエがこれまで見たことないほどに、冷静にブチギレている。

 しかし、それはキマエも同じだった。子供を追い詰め、非戦闘員にまで手を出した敵兵に、もはや戦士の矜持など、期待できるはずもない。


 本陣の壁が、確実に近づいてくる。中からは、怯えたようなやり取りと、パニックに陥る兵士達の声が聞こえてくる。サブリナは、相手の恐怖を煽ることを目的として、ゆっくりと歩いているのだろう。


 ーーー畏敬と畏怖を、抱かざるを得ない。


「…脆そうな壁じゃな」


 本陣の手前まで到着すると、サブリナはその壁に触れる。突貫で作ったであろう、という印象はあるが、本陣の壁としては悪くない出来だ。


 ーーーもっとも、今回に限っては、相手が悪過ぎるのだが。


 サブリナはまるで、扉でもノックするかのような動作で、壁を叩いた。しかし、壁は思い切り破壊されてしまった。


 破壊された瓦礫が地面に落ちる。土ぼこりが周囲に舞った。

 中から、恐怖のこもった視線を向けられる。


 横にいるサブリナを見ると、一点を睨んでいた。その視線の先には、一人の老齢兵士、リドンの姿があった。


 ゴエティフス家のNo.3であるリドンのことは、以前から知っていた。だが、自分の知るリドンは、もっと立派に名家運営に向き合ってきていたはずだ。


 一体、どこでこんなに歪んでしまったのか。キマエには見当もつかない。


「き、キマエ卿…!!」


 リドンはこちらを真っ直ぐに見つめている。まるで、助けを求めてるかのようだった。だが、それに応える気など微塵もなかった。


 サブリナはリドンの元へ、ゆっくりと近付いた。リドンは何とか逃げようと、後ずさる。


「逃さぬよ」


 しかし、サブリナはリドンを逃さなかった。素早く距離を詰め、リドンの胸ぐらを掴んだ。


 いかに恐怖を刻まれてても、周りの兵士達が黙ってないだろうと思い、制圧準備をしていた。しかし、誰一人として、リドンを助けようとはしなかった。


 ーーーやはり、サブリナへの恐怖は底がないのだろう。キマエは戦闘準備を解いた。


 サブリナは、リドンを無理矢理立ち上がらせた。


「や、やめろ…!!私を、どうするつもりだ!?この場で、殺すのか!?」


 何とか逃れようと、リドンは身をよじった。しかし、そんな小さな抵抗が、サブリナ相手に通用するはずもない。

 サブリナは絶対零度の視線を向けたままだった。


「通常の戦なら、確かにそうするじゃろうな。じゃが、今回は殺さぬ」


 ーーーこの方は、そういうところがある。

 大軍を相手に遊ぶ。おちょくる。それを見て楽しむ。にも関わらず、理性を保持している。重要な局面での決断を、間違えないのだ。


 今回のもそうだ。

 普通なら、総大将の首を取って終わりだろう。しかし、サブリナはそれを選ばない。


 この場で殺されないことに、安堵の表情を見せるリドンに、サブリナは囁いた。


「…あくまで、『ワシ』が『この場』で殺さぬ、というだけじゃ。ワシよりももっと、怒り狂ってる者が、おるからなぁ…」


 老齢の男の耳元で、若い女が囁く。光景だけ見れば、色気すら見える。だが、今の光景に色気など欠片もない。むしろ、囁かれたリドンの顔色は、ますます悪くなった。


「や、やめ…!!」


 まずい状況であることを察したリドンは拘束から逃れようと、再びバタバタしている。それに対し、サブリナはゆっくり腕を振り上げた。


「じっとしておれ、小童が」


 サブリナは、リドンの顔面の横一ミリを拳で撃ち抜いた。寸止めすらせずに、完全に撃ち抜いたのだ。


 サブリナの拳の衝撃は、かなりのものだ。少し距離を置いて見ていたキマエのもとにも、伝わってくる。

 その直後、リドンの背後の本陣の壁が、轟音をたてて破壊されてしまう。


「…随分と、加減されましたね」


 それでも、サブリナが放ったにしては、かなり控えめな威力だった。本気だったなら、先ほどの一撃でここら一帯を吹き飛ばすことも可能だったろうに。


「たわけ。ここにいる者共を全滅させては、意味がなかろうが。それに、貴様にもこの程度の真似はできるじゃろ」

「まぁ…真似だけなら。威力までは真似できませんがね…」


 サブリナはこちらを見向きもしなかった。どこまでも、相手に恐怖を刻むつもりらしい。


 状況と会話の中身を理解したリドンは、完全に心が折られており、その場で泡を吹いて気絶してしまった。


「…全く…情けないのう…」

「…む?」


 呆れるサブリナを尻目に、キマエは本陣のデスクの上に置かれている冊子を手に取る。中身を見ると、反乱軍の名前と、所属する家の一覧がまとめられていた。


 ーーーこれは、好都合だ。これなら、ここで皆を捕縛する必要がない。


 サブリナに共有しようかと思ったが、気づいた時には先へ行ってしまっていた。


 やっぱり、この人の元に仕えるのは、後処理での苦労が多い。そう確認しながら、サブリナの後を追った。

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