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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第五章 ダスノム改善とその歪み
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怒りの怪物、前進

 前線の兵士達はざわめいていた。

 サブリナがこちらに向かってくる。しかも、今までとは雰囲気がまるで違う。


 今までなら、楽しそうに豪快な笑いを浮かべていた。だが、今の表情は、能面のように冷たい。


 動かなければ。逃げるにしても、戦うにしても。

 だが、誰一人として、体を動かすことができずにいた。


「…おい」

「う、うわぁぁぁぁっ!?」


 そうこうしているうちに、サブリナが目の前にまで迫っていた。兵士達は情けない悲鳴をあげ、尻餅をついてしまう。


 こんなに、近かったか。

 いつの間に、こんなに近づかれていたのか。


 兵士達は皆、情けなく後ずさるしかない。


 しかし、サブリナはその光景を見下ろしたまま、口を開いた。


「貴様らの総指揮官はどこにおる。…本陣は、どこじゃ」


 本陣。この女は、本拠地を聞いてきている。

 本来なら、総大将の居場所など、言うべきではない。知られてしまえば、狙われてしまう。


 しかし、今回に限っては、相手が悪過ぎる。たった一人で、万の軍勢を相手取り、それでもなお遊ぶ余裕を見せる怪物なのだ。


「こ、この道を、数キロ真っ直ぐに進んだ先に…!!」


 兵士の口は自然と答えてしまっていた。

 ーーー答えない、という選択肢は、もはや出なかった。


 サブリナは本陣のある方角を見つめている。そこには、広い一本道しかない。


「そうか…この先か」


 早く、どこかへ行ってくれ。

 兵士達はとにかく、そう願っていた。


 しかし、サブリナはその場でゆっくりと、腕を振り上げ始めている。

 何を、するつもりなのか。自分達には、もう戦意がないというのに。


「…外道には例外なく、仕置をせねばならんな」

「え…?外道…!?」


 一体、何の話なのか。

 何をもって、自分達を外道呼ばわりしているのか。


 まるで見当がつかない。だが、サブリナの目は、本気だった。


「失せよ。下衆共」


 ーーー兵士達が意識を飛ばす直前、サブリナのその一言が耳に残っていた。


 自身の拳の余波のみで宙に舞う兵士達を見ても、サブリナは何も言わない。


 ただ、その脚に、魔力を込め始めていた。


 その背後で、兵士達が乱暴に地面に叩きつけられているが、もはやそんなものはどうでもよかった。


「…さしずめ、地獄へのカウントダウン、とでも言うべきところかのう…」


 もちろん、その気になれば、そのまま一足飛びで本陣のある場所の近くまで行くことは容易い。だが、クロニオスからの命令もあるし、何よりそんなことをしては、敵が恐れを抱く前に終わってしまう。


 ーーー見えているが、逃げられない。その方が、戦場では恐怖をあおるものだということを、サブリナは知っていた。


 こんな下衆達の本陣に行くのに、奇抜な戦略など不要だ。

 サブリナは、魔力を込めて強化された足で一歩、地面を踏みしめた。


 すると、大きな足音と、それに伴う大規模な地響きが起こった。サトゥニア達の方にも伝わっているだろうが、クロニオス達が何とかするだろう。


「…首を洗って、待っておれ。リドンとやら」


 逃げる気も、隠れる気もない。

 相手も逃がす気も、毛頭ない。


 確実に、仕留める。


 サブリナはそう決心し、地鳴りを起こしながら、一歩ずつ、確実に本陣へと歩いていった。

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