幹部への共有
デメナは玉座の間の扉を勢いよく開ける。
円卓には、サトゥニア、クロニオス、そしてアモディエナが座っていた。視線が、一斉にこちらへと向く。
机の上には、書類が広げられている。どうやら、アモディエナが戦場の情報共有をしていたようだ。といっても、あのサブリナがいる以上、心配はしなくてよさそうではあるが。
「…その様子だと、あまり良い状態ではなかったようだな」
ペルセ達を出迎えに行くことは、皆にひと言言ってあった。だからこそ、アモディエナもデメナが肩を怒らせてる様子を見て、そのような軽口を言えたのだろう。
デメナはそれに応えることなく、円卓の席へと腰を下ろした。
「…それで、ペルセ達の様子はどうだったんだ」
クロニオスが重々しく尋ねる。言葉は冷静だが、内側にある焦りと心配が、魂からダダ漏れだ。
無理なのはわかっていたが、やはり一緒に連れて行ったほうが良かったかもしれない。そう思いつつ、デメナは口を開いた。
「結論から申し上げますと、ペルセさんは無事です。外傷も、特にありません。ただ、疲労困憊で、現在医務室で休養させています」
その言葉に、クロニオスが大きく安堵のため息をついた。サトゥニアやアモディエナも、安心したように頷いている。
「ですが…同居している保護者の、淫魔二名は、顔への殴打痕があり、うち一名は、鼻の骨が折れる重傷です」
そう言った瞬間、困惑の空気が場を包んだ。
無理もない。ペルセの保護者であるあの二人は、兵士ではない。すなわち、戦いで怪我をする道理がないのだから。
「…どういうことだ。経緯を詳しく、説明してくれ」
「イアノさんからの伝聞にはなりますが…」
サトゥニアから続きを促され、先程イアノから受けた報告内容を、ありのまま伝える。
話をしていくに連れ、次第に場の空気が重くなっていく。ペルセの居場所を土足で踏み荒らし、拘束した非戦闘員に手を上げ、挙句子供に力を振るわせてしまったこと。
全てが、その場にいる者達の、怒りのツボを刺激している内容だった。
「…そうか…」
すべてを聞き終えたクロニオスが、静かに、しかし確実に怒気をはらんだ声で呟いた。妻であるデメナでさえ、ここまで怒ったクロニオスを見た記憶はない。
だが、無理もない。大切な娘を追い込み、さらにはその娘を世話してくれた恩人達も傷付けた。クロニオスにとってみても、自分と同様の感情だろう。
「今まででも、極端な思考をしてる者は時々いたが…これほどの者は…」
普段冷静で、合理性を重視するアモディエナでさえも、リドン軍の振る舞いに絶句している。
すると、クロニオスがデメナの方を見つめてきた。
「デメナ。この一件、サブリナにも共有しておく」
「えっ…?」
前線で暴れるサブリナに共有をするのか。この一件を。
隠せるものではない。だが、今共有したら、大変なことになるのは目に見えていた。
サブリナは、会議や細かい事務が嫌いなだけで、バカではない。今回の話も、クロニオスなら分かりやすく伝えてしまうだろう。
だが、そんなことをしたらーーー
「…あの方、間違いなく怒り狂うのでは…」
「だろうな」
「だろうな、って…」
クロニオスは平然としている。分かってて伝えるつもりなのか。
ただでさえ、異常な筋力を有するサブリナが、怒りに任せて暴れれば、もはや戦ですらなくなってしまう。その懸念が、拭えなかった。
「アイツなら、俺の意図を汲み取ってくれるさ。連中に…もう二度と同じ事をしようと思わせないほどの、絶対的な差ってヤツを、刻みこむ」
クロニオスにそこまで言い切られて、デメナは何も言えなくなってしまう。こうなったら、夫は何を言っても曲げてくれない。それを、知っているからだ。
「それで構わないな?サトゥニア」
「構わん。もはや、相手は戦敵ではない。ただの外道集団だ」
クロニオスの確認に、サトゥニアも深く頷いた。アモディエナも、止める気はないようだ。
それを受け、クロニオスはサブリナに魔力通話を繋ぎ始めた。




