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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第五章 ダスノム改善とその歪み
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幹部として、母としての怒り

「…以上が、事の顛末になりますわ」


 イアノが一通り、説明を終える。その説明を、デメナは険しい表情で最後まで聞き続けた。


 ペルセをリドンの軍勢に狙われること自体は、可能性として予想していた。当然、当たって欲しくはなかったが。

 だが、イアノの話は想像以上に酷いものだった。


 ペルセの身柄を確保するため、娘にとって最も安心できる場所、ハイーラの家へ土足で上がり込むだけでない。

 拘束した非戦闘員への、無意味な暴行。しかも、女性である二人の顔面を狙ったもの。

 その根底にある、ダスノムや淫魔への徹底した蔑視思考。


 ーーー聞いているだけでも、酷すぎる。


「…中身は、理解しました」


 ペルセから視線を外すことなく、低い声で呟いた。


 イアノはそんなデメナに対し、深く頭を下げてきた。


「娘さんに…ペルセちゃんに力を振るわせてしまったことは、私にとって痛恨の極みですわ。申し訳ございません」

「お気になさらず。あなたの報告を聞く限り、ペルセさんが怒る状況だったのも、無理はありませんから。…むしろ、不慣れな状況で、良く頑張ってくれましたね」


 護衛対象に戦わせてしまったこと。しかも、その対象がまだ戦士ですらない子供だったこと。確かに護衛役としては、悔やみきれない失態だろう。


 だが、デメナはイアノを責めるつもりもない。何なら、大軍との戦いなど、ましてや魔力が封じられた状態での戦闘など、イアノにとっては未知の領域だったのだ。

 責める道理など、最初からなかった。


「…ん…あ…れ…?」


 すると、寝ていたペルセが、薄く目を開いた。

 寝ぼけてるのか、状況を掴めてないようだ。ゆっくりと首を左右に振り、辺りを見回している。


「ペルセさん…!」

「おかあ…さん…?」


 目を覚ましてくれた。

 その事実だけで、デメナは泣きそうになる。


 ペルセはぼんやりと、デメナの顔を見つめてくる。そして、ふにゃりと頬を緩めた。


「マ…マ…」


 ペルセは、デメナだけを見ている。どうやら、周りにいるイアノやハイーラ、マールの存在を、認識できていないようだ。


「なんですか?ペルセさん」


 デメナは母として、ペルセに声をかける。ペルセは母へ、再び眠りそうな声で囁いてきた。


「私…頑張った、よ…ママ…」


 ペルセはそれだけ言うと、再び眠りについてしまった。


 ほんの一瞬の、覚醒。しかし、その一言が、周りにいる大人達へ、どれほど深く刺さったかは、言うまでもなかった。


「…えぇ…。よく、頑張りましたね、ペルセさん…」


 やはり、この娘の前では、幹部ではいられない。例え、自分の部下が見ていても、母になってしまう。

 デメナは眠るペルセの頭を、優しく撫でた。


 こんな形で、娘の成長を知りたくなかった。この子は、まだ実戦を知る必要のなかった子供だ。もっと平和に、鍛錬を通じて知りたかった。


 技術を会得できて、無邪気にはしゃぐペルセを褒める。抱き締めて、甘やかす。母としても師としても、そういった光景を、望んでいたのに。


「…デメナ様」

「この件を、クロニオスさんに報告します。後は、私たちにお任せください」


 だからこそ、リドンを叩きのめさなければならない。それも、完膚なきまでに。


 母としても、サトゥニアの幹部としても、到底許すことはできない。


 イアノの返事を聞くことなく、デメナは医務室を後にした。

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