母の待ち望んだ帰還
サトゥニアの町の、王宮の応接間。
王宮に入るときに皆が通る、エントランスだ。
そこの中心部に、青い転送陣が敷かれている。
「…イアノさん…ペルセさん…無事で…いてください…」
その転送陣の前で、デメナは祈りを捧げていた。
つい十分程前。
かつてペルセがアスティアノで起こした魔力災害と同様の反応が、局所的ではあったが検知された。
それはすなわち、ペルセに危険が及んだ、ということを意味していた。
クロニオスは直ちに、サブリナの配下で武闘派一家の当主・キマエを現場に派遣した。
その後、どうなったのかは分からない。
ただ、娘が無事でいて欲しい。それだけが、母の願いだった。
祈っていると、眼前にある転送陣が、蒼く光り出した。
ーーー来る。
デメナは、勢いよく立ち上がる。その瞬間、転送陣から強い光が放たれた。
眩しさで、思わず目を閉じる。
しかし、それも一瞬のことだった。
目を開くと、そこには待ち望んでいた集団がいた。
キマエ、オロナ、イアノ、ハイーラ、マール…そして、愛娘のペルセ。
やっと、帰ってきてくれた。デメナは安堵した。
しかし、状況が掴めない。
キマエは両腕にマールとハイーラを抱えてるし、その二人は顔面に大きな怪我をしてるように見える。
マルス家に仕える軍馬であるオロナにはイアノが跨っており、その前方にペルセがいて、ペルセは完全に、イアノに背を預けて寝ている。
とにもかくにも、やるべきことは一つだった。
「…医務室に向かいましょう。キマエさん、オロナはキマエさんが馬小屋に連れて行ってくださいますか?」
「分かりました」
キマエは二人の淫魔を下ろし、さらにはオロナから降りるイアノもペルセごと支えてみせた。
「ありがとうございます」
「気にするな。イアノ、報告は任せるぞ」
「えぇ、分かってますの」
イアノはキマエを見つめ、深く頷いた。
キマエはそれを見た後、オロナを伴って、王宮から出ていった。
「じゃあ、行きましょうか」
それを見送り、その場にいた全員で医務室へと移動を始めた。
デメナは医務室へと歩みを進めながら、ついてきている面々の状態を確認してみることにした。
ハイーラとマールは、歩けてこそいるが、顔に酷い殴打痕がついている。特にハイーラは、鼻が完全に折れていて、酷い有様だ。
イアノとペルセには、目立つ外傷はない。しかし、双方疲労が目立っているように見える。特に、ペルセが顕著だった。
そうこうしているうちに、医務室へと到着する。といっても、専属の医者がいるわけではなく、治療用の薬品や魔力機材が揃ってるだけの、簡素な部屋だ。
「イアノさん。とりあえず、ペルセさんをそこのベッドに」
「はい」
デメナの指示で、イアノは医務室内のベッドに、ペルセを寝かせる。
「いったたたた…!!」
「痛い〜…」
それと同時に、デメナはハイーラ達に傷薬を塗っていく。二人が痛みで悶えているが、これは治療のためのものだ。止めるつもりはない。
骨の損傷については、さすがに医療系の技を持つ者を呼ばないといけないが、外傷の治癒だけならデメナにも可能だ。
作業を終えたデメナは、ペルセの寝ているベッドの横に腰掛け、イアノ達の方へ視線を向けた。
「…さて…私が聞きたいことは、お分かりですね」
一瞬、ペルセの方に視線が向く。一見気持ち良さそうな、娘の可愛い寝顔だ。だが、これはただの睡眠ではないことが明らかだ。
「イアノさん。報告をお願いします」
「かしこまりました」
デメナの依頼に、イアノはその場でゆっくりと語り始めた。




