撤収
キマエは兵士達がいなくなったことを確認すると、イアノへ視線を向けてきた。
「イアノ、お前はその小娘とオロナに乗れ」
キマエがそう言うと、オロナはこちらに近付いてきた。
巨大すぎて、ハイーラの家に入ることができない。しかし、首を下げ、顔だけでも何とかイアノたちに見せようとしてきている。
「私が、ですか?」
「俺がそこの二人を抱えて歩く」
キマエはそう言うと、ハイーラ達へ視線を移す。
一瞬何を言われたか分からない様子だったが、直後に二人は大慌てで声を上げた。
「え〜…!?私たちを抱えるんですか〜…!?」
「い、いやいや!歩けますよ!?そんなお気遣いなく…!!」
いきなり「二人まとめて抱える」と言われては、こうなるのも無理はないだろう。
しかも、流血や殴打痕こそあるが、二人とも意識はハッキリしているし、ちゃんとふらつくことなく立てている。
「…言い出したら聞きませんわよ、この石頭は」
「石頭とは何だ。一番良いやり方だろうが」
「関係性ってものを考えてくださいね…」
イアノは呆れたように、焦るハイーラ達へ語りかける。キマエが文句を言ってるが、そんなのは聞こえなかった。
思えば、昔からそうだ。小さい頃、自分がちょっと膝を擦りむいただけで、キマエにおんぶされた経験もある。その時も、いくら遠慮してもキマエは折れなかった。
「ふらついても困るのでな。いいから大人しく抱えられろ」
「うぅ…」
やはり、今のキマエも昔と同様に、折れる気はないようだ。
ハイーラ達は、観念したように項垂れた。
「…まぁ、ともかく、ロンちゃんの背中を借りますわよ」
「ウチの名馬のオロナのことをそう呼ぶのもお前だけだがな…」
「これが、関係性ってものですわよ」
イアノはそう言いながら、オロナの顔に優しく手を添える。オロナはぶるる、と鼻息を大きく吹き出した。鼻息が、やたらと生暖かい。
オロナは、自分の認めた悪魔以外、絶対に背中へ乗せない馬だ。自分は小さい頃からの付き合いがあるから良いが、ペルセは問題ないのだろうか。
そんなオロナは、ペルセの寝顔をじっと見つめている。品定めでもしているのだろうか。
まるで匂いを嗅ぐかのように、ペルセの顔に鼻を近づけている。自分はあまりに気にならないが、獣臭が強く漂ってくる。
しばらくすると、オロナは再びぶるる、と鼻息を吐いた。そこに、敵意はない。
どうやら、認めてくれたらしい。
ホッと一息をつく。
しかし、いざオロナに乗ろうとすると、別の問題もあった。
「…どうやってロンちゃんに乗りましょう…」
イアノ一人なら、鐙も付けられているオロナ相手なら、何なく乗れる。しかし、今はペルセを抱えている。その状態で、体格の大きいオロナに乗るのは、かなり辛い。
どうしようか思案していると、いきなり体が浮かび上がる感覚があった。
自分相手にこんなことをするのは、一人しかいない。
「ちょっ…キマエさん!?」
「さっさと乗れ」
キマエは難なく、ペルセを抱えるイアノを持ち上げていた。今までも持ち上げられることは何回かあったが、大人になってからは初めてだ。
ーーーやっぱり、キマエは変わってない。
そう思いながら、イアノは鐙に足を乗せ、オロナの背に跨った。そして、自身の前に、ペルセを座らせる。
ペルセを落とさないようにしながら、オロナの手綱を握る。乗馬には慣れているが、オロナに乗るのは久し振りだった。
「一度サトゥニアに戻るぞ」
キマエは両腕にそれぞれハイーラとマールを抱えている。二人を腕の上に乗せるような形であるため、キマエの腕に相当負担がかかってそうだが、そこの心配は不要だろう。
「分かりましたわ。どちらに向かえばよろしくて?」
「ここの通りを真っすぐだ。そこに、俺がここに来るために使った転送陣がある」
イアノはそれを理解すると、キマエの案内に従い、オロナを動かし始めた。




