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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第五章 ダスノム改善とその歪み
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圧倒的武力

 キマエは指を鳴らしながら、リドンの軍勢に向き合っている。


 イアノは、ハイーラ達の元に駆け寄りながら、キマエの方へと視線を向ける。


 久し振りに、この方の背中を見た気がする。

 大きくて、逞しい背中だ。


 お互い名家の一員であることもあり、二人が小さい頃から交流があったが、その時から背中の大きさはあまり変わってないように感じる。


「…イアノさん…。あの方、大丈夫なんでしょうか…?」


 ハイーラが心配そうな表情でこちらを見つめてくる。その懸念も、無理はない。


 いかにキマエが武闘派であるとはいえ、相手の人数はかなりのものだ。しかも、ペルセの魔力の影響はまだ残っている。


 だが、イアノは全く心配していなかった。

 むしろ、相手が下手に歯向かって、再起不能にされないかの方が心配だった。


「あの方なら…キマエさんなら大丈夫ですわ。幹部悪魔を除けば、魔界一の、最強の武人ですから」


 だからこそ、断言できる。

 キマエなら、戦場で何があっても心配いらない。それだけ、イアノは信頼していた。


 ハイーラは困惑していた。だが、イアノの表情を見て何も言えなくなったようで、キマエの方へと視線を戻した。


「…リドンの配下の者共よ」


 キマエは声を張らず、仰々しく口を開く。その話し方には、後ろで聞いているだけのイアノ達にも分かる圧力があった。

 対峙している兵士達にとってはなおのことだったろう。イアノと話していた隊長も含め、全員が思わず背筋を伸ばした。


「貴様らにどういう事情があったかなど、俺は興味がない。子供を追い込み、非戦闘員に無意味な加害をする者の事情など、知ったことではない」

「な…っ!!」


 キマエの言葉に、何か言いたげな様子で兵士達がキマエを睨む。歯を食いしばりながら、先程イアノと話をしていた男が声をあげた。


「サトゥニアに、ダスノム政策を止めさせねばならないのです!!このままいけば、ベリアスの秩序が!平和が、崩壊するのです!!ダスノムに堕ちるような犯罪を犯したクズが、まともな生活に戻ってよいというのですか!!」


 ーーーこの期に及んで、まだ思想を曲げてない。ある意味、尊敬に値する頑固さだ。


 だが、キマエの反応は冷徹だった。


「そういう御高説などどうでもいい。俺は、この小娘の父親から依頼を受けて、保護しに来たのだ。連れて帰らせてもらう」


 そう言うと、キマエは再び兵士達へ背を向け、イアノの方へと近寄ってきた。

 そして、イアノの前に膝をつき、イアノと視線を合わせてくる。


「…立てるか?サトゥニアに戻るぞ」

「私は、大丈夫です。ですが、ほかの御三方が…」

「分かっている」


 そう話していると、キマエの背後に、一人の兵士が武器を持って迫ってきた。

 どうやら、背を向けたキマエの頭を割ろうとしているらしい。思い切り、大きな槌を振り下ろそうとしている。


 ーーーだが、そんなもの、キマエに通用するはずもない。キマエは、振り下ろされたその槌を、一瞥すらせずに、軽々と片手で受け止めた。


「うそ…!?」


 鼻を抑えながら立ち上がったハイーラが、目の前の光景を信じられずにいるようだ。

 イアノでも素の肉体だけで同じことをやるのは不可能であるため、普通の反応ではあるだろう。


「…邪魔をするな!」

「ぐぁっ!?」


 キマエはそのまま、自身の裏拳を兵士の顔に入れた。またしても、兵士はその一撃で完全にノックアウトされてしまった。


 あぁ。やはり、こうなってしまうか。

 キマエの裏拳を受けた兵士は、死んでこそいないが、顔面が陥没し、崩壊していた。


「…すごいね〜…」


 マールも殴られた頬を擦りながら、驚きの表情で見ている。だが、その奥に、驚きだけではない何かがある気がした。


 しかし、そんなことを気にしてる場合ではない。イアノも、気絶したままのペルセを抱えた。


 ーーー軽い。驚くほどに、子どもの体だ。

 あれほどの凶悪な魔力を持つ個体だとは、到底思えなかった。


「…文句があるなら、俺が相手をする。文句がないなら、消えろ。そして、リドンに伝えろ。『追っ手を出すな』…と」


 キマエは兵士達の方へ向き直りながら、言い放つ。その言葉に、もはや誰も逆らえなかった。


 兵士達は、蜘蛛の子を散らすように、その場から逃げ出してしまった。

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