ペルセの魔力の影響
ーーー酷い有様だ。
ハイーラ達が殴られ、それをトリガーにして、ペルセが暴れた。
否。『暴れさせてしまった』。
あの魔力が、父親由来の『制圧魔力』というものか。ペルセの戦闘が終わった後も、空気中に魔力の残滓が漂っており、イアノ自身も魔力が練りにくくなっている。
ーーー鍛錬の成果は、デメナ達から聞いていた。
かなり、制御の技巧が磨かれてきている、とも。
だが、今回見たペルセの制御技巧は、想像をはるかに超えていた。
魔力が部屋の外に漏れないように、流れをコントロールし、さらに魔力で巨大な拳を作り上げる。かなり精密な制御が必要な挙動だ。
もちろん、体の外に過剰な程の魔力が漏れ出していたうえ、今もなお残滓が漂い続けているので、完全な制御下には置けてないようではあるがーーー。
「…末恐ろしいですわ…」
イアノは静かに呟く。
ペルセの年齢や、実戦経験から考えると、恐ろしいまでの技巧だ。
だが、考えてみれば当然のことかもしれない。ペルセの鍛錬にはアモディエナ、そしてイアノの上司で師でもある、ペルセの実母デメナが関わっている。
さらには、実父であるクロニオスまでも時折関わっているようなのだ。
アモディエナの合理的な制御。
デメナの緻密過ぎる技巧。
そして、クロニオスの規格外な魔力。
その全てを教わっているのだ。思わず妬けてしまうほどの、英才教育である。
しかし、その成果を、こんな形では見たくなかった。特に、母であるデメナは、「できたよ!」と無邪気に甘えるペルセを抱き締め、ちゃんと褒めたかったであろうに。
そう思うと、胸の奥から、驚きのあまり消えかかっていた怒りの炎が、再び湧き上がってきた。
「…何しやがったんだあのガキ…!!」
男が戸惑ったようにそう言っている。しかし、ペルセが動けそうにないことを認識すると、不自然に口角を上げた。
「今が好機!!」
男はそのまま、ペルセに襲いかかろうとした。
これ以上、ペルセを傷つけるわけにはいかない。
魔力が練りにくく、息苦しさはある。だが、それでもイアノは立ち上がり、男の顔面を狙いハイキックを食らわせた。
「ごっ…!?」
「お待ちなさい。まだ、私からの話は終わっていませんわよ」
男は蹴りを受け、その場に倒れ込む。しかしながら、魔力無しでの一撃であるのと、敵の耐久力が高いためか、大したダメージにすらなっていない。
ーーーやはり、魔力が使えない状況では、非常に戦いにくい。ペルセの魔力の質は、驚異的だ。
これでも、ペルセは自身の魔力が可能な限りこちらへ向かないよう制御していたようだ。もし、この魔力を区別なく放っていたら、どうなっていたことか。
とはいえ、自分も敵も魔力を練れないのは、イアノにとってはある意味好都合であり、不都合なことでもあった。
「…イアノ様。なぜ、分からぬのですか…!」
「それはこちらの台詞ですわ。非戦闘員を傷付け、執拗に子供を狙うこと。どこまでが、リドンの意思なんですの?」
イアノは冷たく睨みつける。しかし、男は顎をさすりながら、平然と立ち上がった。
命令されているとは言え、ここまで子供であるペルセに執着するのはなぜか。なぜ、無関係なハイーラ達をも巻き込むのか。イアノには、分からないことが多すぎた。
しかし、男は質問に答えることもせず、呆れたように首を振った。
「…どうやらあなたも、サトゥニアの愚かな価値観に染まり切っているようだ。ゴエティフス家のご令嬢ということで、期待した我々が…愚かだったようだ」
「イアノさん!!後ろ!!」
男が言い切る直前に、ハイーラの叫びが耳に入る。
慌てて後ろを振り向くと、そこには斧を振り下ろそうとする鎧武者の姿があった。
なんてことだ。
いつもなら、魔力で生命反応を感知して、背後を取られないのに。
もう、避けられない。何とか、防御だけでもしようと、腕を頭上で交差させる。
ーーーしかし、その直後。
鎧武者の側頭部に、何かが勢いよくぶつけられた。




