制御された暴走
「…連れて行け」
「はっ」
男達はそのまま、ハイーラ達を別室へと連れて行こうとしている。
何で。
何で。
ハイーラが。マールが。
一体何をしたというのか。
「まさか淫魔がいるとはな…」
「身ぐるみ剥がして…お楽しみといこうか…」
男達の中にある、醜い欲望が、ボンヤリとではあるが伝わってくる。少なくとも、まともに扱う気がないことだけは、分かってしまう。
やめて。
…やめてよ。
その手を、放して。
傷付けないで。
放して。
その手をーーー
「放してよッ!!」
もう、限界だった。
その叫びと共に、ペルセの魔力が、大きく外へ漏れ出した。
ハイーラの家の中で、ペルセの放つ白色の魔力の渦が、ペルセを取り囲んでいる。
周りが何か言っている。驚いたようにざわついていた。しかし、ペルセの頭の中に浮かんでいたのは、鍛錬しているときのアモディエナの声だった。
『いいか、ペルセ。お前の魔力は、アスティアノを崩壊させかねない。原則、その魔力を鍛錬以外では出すな』
アモディエナはあの時、眼鏡に手を添えながら、そう言っていた気がする。だが、そこに付け加え、もうひと言あった。
『だが、お前やお前の大切なものが危機に晒された場合は別だ。思う存分放って、守れ』
その言葉が、ペルセの頭の中に響く。
ーーーまさに、今がその時だ。
ペルセはせめて周りに被害を出さないために、白い魔力を部屋の外へ漏れないよう制御する。
何とか、イアノやハイーラ達が浴びないように向きを変える。鍛錬で試したことはあったが、実際に一人でやったのは初めてだった。
「これ、って…!?」
「あの時の〜…アンドレイスと戦った時のだね〜…」
ハイーラとマールが、こちらを唖然とした様子で見ている。もしかして、前にも見たことがあるのか。ペルセにその記憶はなかった。
「なんだ…力が、抜ける…!?」
「魔力が、出せない…!?」
男達が口々に声をあげている。
アモディエナの言っていた通りだ。自分の魔力は、アスティアノの魔力を完全に封じ込めている。
「…デメナ様より鍛錬の成果は聞いておりましたが…これほどにまで技術が向上しているとは…!!」
隣りにいるイアノも、驚きの声を出している。
隠していたわけでもないが、イアノに鍛錬の成果を見せるのも大分久し振りな気がする。
いつもなら、褒められて胸を張るところだ。だが、そんなことを言ってる場合ではない。
ペルセは、ハイーラ達を連れて行こうとした男達へと目を向ける。
「ハイーラさんを…マールさんを…!!」
ペルセは腕を振りかぶる。その動きに合わせ、白い魔力が大きな拳を形作る。
直接的にぶつけてもよいが、それでは魔力が外に漏れる。少し手間はかかるが、この作った拳で殴る方がよいと思った。
「すごい…ペルセちゃん、ここまであの暴走魔力を自分のものに…!!」
ハイーラも感嘆の声をあげている。だが、ペルセの耳には届かない。
男達は、何が起きてるか分からないままで、こちらを見てきた。
「二人を…放せぇ…ッ!!」
「なぁっ…!?」
ペルセはそのまま、魔力の拳を力任せに振るい抜き、男達へとぶつける。
重い音が、家の中に響く。家の床が、大きく割れる音がした。
それと同時に、ペルセは膝をついた。
魔力が、一気に霧散し、放出が止まってしまう。
ーーー疲れた。
もう、限界だ。
こんなに制御を維持することが大変だとは、思わなかった。もう、今はあんな真似をすることはできない。
だが、ペルセは疲労した体を、無理やり動かす。二人の体温を、ペルセの体が求めていた。
「ハイーラさん…マールさん…!!」
フラフラになりながら、ペルセは二人のもとへと近付いた。
そして、縛られている二人へ抱き着いた。
「私…私、頑張ったよ…」
すでに、息が荒い。肩で息をしている自覚もある。
それでも二人を助けられたなら、それでいい。
ペルセは、二人に笑顔を向けた。
「ペルセ、ちゃん…!!ありがとう…助かったわ…!」
「助かったよ〜」
手が縛られているため、抱擁はできない。しかし、ハイーラもマールも、そんなペルセの頬へ、頬ずりをしてくる。
血が滲んでいて、感触が少し気持ち悪い。でも、この上なく温かかった。




