天国から地獄へー日常の完全崩壊ー
一方、アスティアノのハイーラ家ーーー。
だらけるマール相手にも構わず、ペルセは人形遊びの相手を要求していた。
いつも通りの、平和な光景。
ーーー否。いつも通りではない光景でもあった。
「ん〜…面倒くさい〜」
「私と遊びましょうか?ペルセちゃん」
マールだけならともかく、その空間にイアノもいた。
何か仕事で用事があるわけでもない。
にも関わらず、数時間渡ってハイーラの家に滞在している。
ペルセにとっては、大好きなイアノとずっと一緒に遊ぶことができて嬉しかった。
食事などは自分で用意しているようだし、寝る時は別な場所で寝ていることだけが不満ではあった。
しかし、イアノにはマールと違った温かさがあった。ペルセはその温かさに、存分に甘えていた。
しかしながら、共に過ごすうちに、イアノの奥底に微かながら焦りと不安が見え隠れするようになっていた。
一体、なんだろうか。
ペルセには、全く理解ができなかった。
「イアノさん、うちの子がいつもすみません。お忙しいのに…」
「いえいえ。全然大丈夫ですわ。私も、ペルセちゃんと共に過ごせて嬉しいので」
…何だか、ハイーラも大分お母さんっぽくなってきてる気がする。
ペルセはイアノとお人形遊びに興じながら、そんなどうでもいいことを考えていた。
そのまましばらく遊んでいると、ふとイアノが外へと視線を向ける。
何を見ているのだろうか。ペルセもイアノの見てる先へと視線を向けた。
「…ッ!?」
その瞬間、とてつもない気配を感じた。
明らかな、敵意。そして吐き気を催す、嫌悪感だ。
今までに、直接的に味わったことのない感情を受け、気分が一気に悪くなる。ペルセの顔が、青くなっていった。
「…ペルセ〜?大丈夫〜?」
「ペルセちゃん、どうしたの!?顔色悪いわよ!?」
何かを察したマールが、のそのそと起き上がり、ペルセに近寄ろうとする。
同様にハイーラも、慌てて駆け寄ろうとしてきた。
いつもなら、マールやハイーラから抱き締められて、慰められるところだろう。
「マズいですわ!!」
だが、イアノが二人を止め、ペルセを抱え、壁から慌てて離れた。
その直後、背後から恐ろしい音がした。
壁の欠片が、部屋中に飛び散った。
「え…!?」
一体、何が起きたのか。ハイーラやマールも、完全に動きを止めてしまっている。
音のした方へと視線を向けると、壁に大きな穴があいている。その先に、屈強そうな大勢の男達がいた。
「うっ…!?」
その男達から、壁が壊された時よりも強烈な敵意を感じる。ペルセは思わず、こみ上げてくる吐き気を止めようと、口元をおさえた。
あまりに強烈。あまりに不快な感情。
こんな感情を、知りたくなかった。
母親由来のこの感知能力。鍛えれば実戦でも使えるとは聞いていた。だが、こんなものまで拾ってしまえるとは思わなかった。
「…辛いですわよね…ペルセちゃん。あんな醜いものを…!!」
壁から離れたイアノが、ペルセの頭に手を置く。そこからは、温かい感情が流れ込んでくる。
でも、それだけでは足りない。全然足りない。
「マールさん!ハイーラさん!!」
あの二人の手でなければ、ペルセの中に渦巻くこのグチャグチャな感情を処理しきれない。ペルセは、二人に向けて叫んだ。
しかし、マールとハイーラが相手の男達に捕まってしまっている。
「ちょっと!離しなさいよ!!」
「やだな〜…何する気〜…?」
ハイーラは今にも噛み付きそうな勢いで抵抗している。その一方で、マールはハイーラほど激しくはないが、身を捩って逃げようとしていた。
「…隊長。この淫魔達はどうしましょうか」
「暴れられても面倒だ。縛り付けておけ」
ハイーラ達の抵抗も虚しく、二人は呆気なく縛り上げられてしまう。
ペルセは吐き気を堪えながら、その様を呆然と見つめることしかできなかった。




