前線の怪物・サブリナ
魔力弾を撃った。
間違いなく、命中するはずだった。
なのに。
たった一人の女に、潰された。
しかも、肉を食いながら、その片手間で、さらに魔力すら感じない、素手で。
「ば、ばかな…!!」
リドンは、動揺を隠せずにいた。
魔界のNo.3の幹部悪魔、サブリナ。名前と顔は知っていた。
だが、所詮は若い女だと思っていた。しかし、今見たものは、その枠で収まらない、異常な力だった。
防がれる可能性を想定していなかったわけではない。でも、こんな形での防がれ方は、予想だにしていなかった。
だが、うかうかしていられない。目の前には、あの砲撃を素手で砕いてみせたサブリナがいる。
ーーーここでやらなければ、叩き潰されるだけだ。
それにーーー。
「…いや…まだ、手はある…!!」
リドンは己を鼓舞すると、アスティアノのとある場所で待機している別働隊へ魔力通話を行った。
この部隊こそが、もう一つの切り札だった。
「プランAは失敗した…!プランBを実行しろ!!例のガキの身柄を確保しろ!!急げ!!時間がない!!」
向こうの部隊の連中が何か言っているが、そんなことを気にしてる余裕はない。リドンは魔力通話を切り、前衛の方へ視線を向けた。
兵士達は砲撃をあっさりと潰されたことで、怯みきっている。だが、サブリナはゆっくり、しかし確実に、こちらへ歩いてきている。
「怯むな!!所詮は単騎!!数で押せば、ヤツも疲弊する!!削れ!!プランBまでが成功するまでの、時間稼ぎをせよ!!」
リドンは兵士達にそう伝える。兵士達はそれを聞き、目に希望の光が戻る。
ーーーそうだ。プランBもある。
まだ、希望が消えたわけではない。
兵士達はゆっくりと歩いてくるサブリナへ、刃を向けた。
それを見たサブリナは、嬉しそうに笑い始める。
「ガハハハ!!そうじゃ…そう来なくてはのう…」
手に持っていた骨付き肉を完食し、残った骨を手元でくるくると器用に回している。
舐められている。さすがにここまで侮られては、プライドにも障る。
「皆の者!!あの女を…サブリナを、討ち取れ!!」
兵士達はリドンのその号令を受け、一斉にサブリナへと襲いかかった。
サブリナの方へ、一斉に魔力弾や魔力の込められた斬撃、刺突が飛んでいく。
四方八方囲まれており、普通なら回避不可能だろう。
「ほれ」
サブリナは手に持っていた骨を投げつけてきた。しかし、普通の投擲ではない。
命中した兵士の兜は完全なまでに破壊され、頭からも流血した。兜がなければ、頭が割れて死んでいたような、そんな威力だ。
「なっ…!?」
兵士達がそれを見て、一瞬怯んだ。その瞬間だった。
サブリナは、軍勢に向けて蹴りを放ってきた。その衝撃は凄まじく、兵士達が紙のように吹き飛ばされて、致命傷を負わされてしまう。
だが、蹴りそのものは直接命中していない。
ーーー否。あえて当てないように寸止している。
やはり、化物だ。
正面からでは、まるで歯が立たない。
しかしそれでも、立ち向かわなければならない。
ここで負ければ、ダスノムのクズ達が解放されてしまう。
兵士達は、サブリナへと刃を向ける。
無数の刃が、隙間なくサブリナに襲いかかる。
ーーーそして、ついに。
サブリナの肩に、傷を付けることに成功した。
いける。兵士たちは、一瞬希望を抱いた。
やはり、効いてないわけではない。サブリナであっても、普通の悪魔だ。
「ん〜…たまらんわ…この感覚は。この感触があってこその、戦場じゃ…」
しかし、サブリナはむしろ、傷を付けられて喜んでいる。どういうことか。
でも、それを分析する暇などない。
攻めて、攻めて、攻めて。それでしかこの怪物の歩みを止めることはできない。
だが、掠められても致命傷を与えられない。
サブリナが拳を振るえば、直撃していなくても兵士達が塵のように殴り飛ばされ、蹴りを出せば砂のように蹴り飛ばされてしまう。
一方的な、蹂躙だった。




