不穏な気配
会見から数週間が経った。
会見から間もなくは、意見箱への投書もまだあった。だが、真摯に答え続けた結果、それも今ではかなり減っていた。
ダスノムの求人への応募も順調だし、現場監督もキュエル家が中心となって執り行ってくれている。そのおかげか、想定よりも早いペースでダスノムの復旧工事が進んでいる。
ーーーこの上なく順調だ。
ある一点を、除いては。
「…集まったな」
玉座の間の円卓に、サトゥニアを中心とした魔界の幹部達が集まっていた。
クロニオス、デメナ、アモディエナが、円卓を囲っている。しかし、いつものように一つの空席があった。
「…サブリナさんは?」
「アイツが来るわけねぇだろ」
「ですよねぇ…」
デメナの問いに、クロニオスがぶっきらぼうに答える。デメナも予想していたようで、呆れたようにため息をついた。
サトゥニアはそれを気にも留めず、口を開いた。
「デメナ。今回の幹部会議は、お前の発案だ。まずは皆に事情を説明しろ」
「はい」
デメナは返事をすると、空間に資料を投影した。
映し出されたのは、とある地図とその現場と思しき写真だった。
その写真には、おびただしい数の軍が写っていた。
「イアノさんからの報告で、アスティアノの貴族の一部で、大規模な軍隊の編成が確認されています。その数、万は下らないとのこと」
デメナのその言葉に、クロニオスとアモディエナが息を呑んだ。
ーーーとことん、嫌な予感というのは当たるものだ。
これだけでもかなりの脅威だ。しかし、デメナの言葉はまだ続いた。
「指揮する貴族の中には、イアノさんも属するゴエティフス家の幹部もいます。そのことから考えると…」
デメナはそこで、言葉に詰まる。
全員の目が、デメナに向けられていた。
しばらく黙りこくった後、言いにくそうに口を開いた。
「…イアノさんを通じて、ペルセさんの存在が貴族達に漏れてる可能性があります」
「何だと!?」
その言葉に、クロニオスが声をあげた。
その大きな声が、玉座の間を震わせる。
不器用だが、すっかり父親だ。
しかし、クロニオスはすぐに落ち着きを取り戻した。さすがの切り替え力である。
「…済まない、続けてくれ」
「恐らく、このままでは武装蜂起をされます。争いを避けるのなら、書簡などを送り、話し合いをすべきかと」
デメナはそこまで言うと、サトゥニアの方へと視線を向けてきた。
確かに、反乱を食い止めるためにはそれも有効だろう。だが、あの会見を行い、意見箱の意見まで対応してもなお聞かない連中が、果たしてその程度で止まるだろうか。
「…状況だけサブリナに共有しておけ、クロニオス」
「サトゥニア…お前、まさか…!?」
「書簡は送るが、無視される可能性が高い。全面衝突も起こり得る」
クロニオスが驚いている。だが、サトゥニアにとって、想定の範囲内のことではあった。
もちろん起きてほしくはなかったが、会見の時から薄々気付いていた。このダスノム復旧政策に、理屈や不安ではなく、感情で反発する者がいたことに。
「アモディエナ。連中に送る書簡を作ってくれ。こちらに対話の意志があることを示す内容でな」
「分かりました。すぐに取りかかります。送り先は、ゴエティフス家で良いでしょうか?」
「…それで問題ない。ただし、イアノを介さずに直接送れ」
アモディエナはそう言うと、すぐに筆をとり、書簡を作り始めた。
アモディエナならば心配はいらない。そう思い、続けてデメナへ視線を向ける。
「ペルセ周りについては、お前が独自で動いて構わない。必要なら、こちらから追加で護衛を派遣する」
「一先ず、イアノさんを護衛として送ります」
イアノを護衛として送る。
若干、不安は残る。しかしながら、警戒なくペルセに近付けるのがイアノしかいないのも事実だ。
「…分かった。皆の者、アスティアノの貴族連中と戦争になる可能性が高い。各々、備えておくように」
サトゥニアはそう宣言し、幹部会議を閉める。
ーーーこれでよいのか。
サトゥニアには判断ができない。
だが、連中が戦うつもりで来るなら、こちらも容赦しない。




