会見後の朝
夜が明ける。
アスティアノにあるハイーラ家の朝は、いつも通りドタバタだ。
「マール!!起きなさい!!」
「ん〜…もう朝〜…?」
朝ご飯ができても起きてこない友人を、今日も叩き起こす。いつも通りのぐうたらぶりだ。
マールはのそのそとベッドから這い出てくる。
ーーー全く。
ペルセですら、大分自分で起きてくるようになってきたと言うのに。
今更矯正する気もないが、それでも少しはペルセの保護者として、子供のお手本になるような振る舞いを見せてほしい。
マールがフラフラしながら食卓へ着席するまで見届けた後、自分も着席する。
ハイーラの向かい側には、ペルセが座っていた。
「いただきまーす!!」
元気良く、ペルセの挨拶が響く。それが、ハイーラ家の朝の風物詩になりつつあった。
ペルセはその勢いのまま、ご飯を食べ始める。その表情は、本当に嬉しそうなものだった。
毎回のように喜んでくれるので、ハイーラとしても作り甲斐があった。
そんなペルセの笑顔を見てると、昨晩魔王サトゥニアが配信した会見が、ハイーラの頭を過る。
ーーー三日前、突如サトゥニアからの公的通達があった。魔界全域に向け、魔力通話を用いた、視聴者参加型の会見を行う、と。
それにも驚いたが、内容を知ってより驚いた。なぜなら、ダスノム環境改善政策について、というものだったからだ。
そして、昨晩その会見が執り行われた。
途中からではあったが、ハイーラもその会見を見ていた。
魔王であるサトゥニアの口から、ダスノム改善の政策について説明がなされ、それに対する質問や意見、不安の声などが、リアルタイムで続々と出てくる会見だった。
ハイーラも、全ては覚えていない。
しかし、サトゥニアは一切誤魔化すことなく、出てきた質問や不安点などに正面から答えていた。それが、とても印象的だった。
遅い時間までやっていたので、最後まで見届けることは叶わなかったが、少なくとも日付が変わるまではやっていた。
「…どうしたの〜?ペルセの顔に、なんかついてたりする?」
隣に座るマールから声をかけられて、ハイーラは我に返る。
いけない。
ペルセの顔をじっと見つめながら考え事をしていたようだ。
「え!?なんかついてる!?」
ペルセは焦りながら、ティッシュで自身の口の周りを拭き取り始めた。
ペルセがここに来たばかりの頃は本当に、食べる度に口の周りが食べカスだらけになったりして、汚れていた。
今でもそこは完璧ではないが、随分と綺麗な食べ方をしていて、大きく汚れたりすることは減っていた。
「昨日の会見のことを思い出してただけ。あんたどうせ見てないでしょ?」
「あ〜…あんなの、私が見てると思う〜?」
「…でしょうね…」
思った通りだった。
マールは、あの会見にも全く興味を示していない。仮に興味があったとしても、難しい話が飛び交っていたので、すぐに聞くのをやめてしまうだろう。
だから、マールにそこを期待してはいない。だから、そこまで驚きもなかった。
「何でもいいけど、さっさ食べなさい。あんた、さっきから箸が進んでないわよ」
「え〜…」
ハイーラはマールの右手を軽く叩く。
それに少し不満げな顔をしながらも、マールは特に反抗してこない。
ペルセはそんな二人の様子を見て、また嬉しそうに笑っていた。
ーーーだが、三人は知らない。
会見の裏で、静かに膨れる反発を。




