会見の後処理
「…はぁ…」
最後まで会見の公式魔力通話に繋いでいた悪魔が、つい先程、ようやく接続を切った。
ようやく、会見が終わった。
ダスノム改善改革について、様々な意見や質問が飛んできた。
19時からという、皆が在宅しているであろう時間を狙い、会見を執り行ったことで、大勢の悪魔達が見て、参加していたことだろう。
サトゥニアは椅子に深く座り、背もたれに身を預ける。
ーーーどれだけ、話したか。どれだけ、言葉を尽くしたか。
正直、覚えていない。
だが、一つだけ確かなことがある。
少なくとも、今自分の持てる限りの説明をし、できる限りの応対はした、ということ。持てるものは、全て出し切った。
だからこそ、疲労感がどっと押し寄せてきた。それを、隠すこともできなかった。
ふと、時計に目を向ける。その針は、とうに日付が変わってしまっていることを示していた。
「…さて…」
しかしながら、休んでいる場合でもない。まだ、やらなければならないことが残っている。
軽く腕を伸ばし、凝り固まった体をほぐす。
すると、目の前に湯気を上げる湯飲みが差し出された。
「お疲れ様でした、魔王様」
そこにいたのは、ずっと会見の裏方として働き続けた、アモディエナだった。
進行管理、接続の管理、質問の整理など。そういった調整を、全て担っていた。
その顔には、さすがに疲労が滲んでいた。
「無理難題に付き合わせて済まなかった。先に帰ってよいぞ」
「いえ…私も、最後までお付き合いしますよ」
会見の後処理。可能なら、自分一人でやってしまいたい。
だが、アモディエナが手伝ってくれるのなら、かなり助かる。とはいえ、アモディエナにも無理させたくはない。
しかしながら、アモディエナも引くつもりはないようだった。
「…分かった。どうせなら手早く済ませるぞ」
「えぇ」
そう言うと、サトゥニア達は、会見の後処理に取りかかろうとした。
すると、サトゥニアの背後から、夜風が吹き込んでくる。それと同時に、酒の臭いが鼻腔をくすぐった。
こんな夜更けに、来客か。
ーーー否。こんな無礼な来訪をしてくる者など、一人しかいない。
「…こんな夜中に何の用だ…サブリナ」
「何じゃ…ワシが来てはならんかったのか?」
サトゥニアは振り向くことすらせずに、背後の悪魔に声をかける。
サブリナは楽しそうにケラケラ笑いながら、酒をあおっている。
「会見、見させてもらったぞ。あんなこと、ようやりおるわ…」
サブリナは落ち着いた様子でそう言った。
ーーーあの会見を、見たのか。
幹部会議に招集しても来ないほどに、政が嫌いなサブリナが。
少し感心しかけたが、サブリナが再び豪快に笑い出した。
「ワシなら数十分で寝てしまう自信があるわ!!」
「…邪魔しに来たのなら、帰れ」
そんなサブリナに、アモディエナはそちらに視線を向けることなく言い放つ。この光景も、いつものことだ。
「お主は頭が硬いのう…。もうちと、自由に生きても良いのじゃぞ?」
「頭が硬くて結構。お前より自由に生きてる悪魔を見たことがないのでな」
呆れたように言うサブリナに、アモディエナも面倒そうにしながら対応している。その間も、アモディエナの手は止まっていない。
やはり、二人で作業をして正解であった。
こうやって話している間に、後処理のほとんどが完了している。さすがは、アモディエナだ。
「…サブリナ」
「む?」
「会見を見たなら気付いてるかもしれないが、場合によっては貴様の力を借りる必要があるかもしれん」
相変わらず、背後で飲み続けてるサブリナに声をかけた。
サブリナは政治のような難しい話や、事務作業のような細かい作業が嫌いなだけで、阿呆ではない。恐らく、サブリナなら分かるはずだ。
「…ワシに頼るということは、『そういうこと』か?」
「可能性の話だ。万が一もあるのでな」
思った通り、サブリナは分かっているようだった。
不安の種を残しながらも、サトゥニアの夜は、更けていくーーー。




