ダスノムの改善政策
サトゥニアの玉座の間。
そこの円卓に、5つの席が置かれている。
一際大きな椅子に、魔王サトゥニアが座っている。
そこから最も遠い席に、アモディエナが腰掛けていた。
「…アモディエナ。奴らはまだ来ないのか」
「魔王様。まだ定刻ではございません。ゆっくりお待ちいただければ、と」
サトゥニアは焦る様子もなく、アモディエナに問う。
アモディエナは普通に答えるが、サトゥニアの様子は変わらない。
今日、デメナはペルセの処遇について、アスティアノの悪魔達と話し合う、と言っていた。あの母親のことだ、娘を想うあまり、また自分に辛い選択をしているだろう。
後で説教の一つでもしてやらねばーーー。
そう考えていると、玉座の間の入り口が開いた。
「すまない。遅くなった」
「時間には間に合ってますから大丈夫かと」
そこには、クロニオスとデメナがいた。その表情は、晴々としていた。
ペルセと再会できてから、というもの、二人の表情から明らかに強張りがなくなっている。
長い付き合いだ。二人の変化など、嫌でも分かった。
「確かに定刻には間に合ってるが、あまり猶予はないぞ」
「まぁまぁ…そうピリピリしないでくださいよ、アモディエナさん」
アモディエナは呆れたように、二人へ声をかけた。それに対し、デメナはこちらをたしなめてきた。
お前のせいで言わされてんだ、という言葉を、飲み込んだ。それは今、ここで言うべきことではない。
クロニオスはサトゥニアの右隣、デメナはアモディエナの隣に座った。幹部会議の、いつもの光景だ。
ふと、クロニオスが自身の隣で、デメナの向かい側でもある椅子へと目を向けた。いつも、幹部会議のその席は空席だった。
「…おい、サトゥニア。『ヤツ』には話を通したのか?」
「察しろ」
サトゥニアはクロニオスの問いに、手元の資料を見ながらぶっきらぼうに答えた。
あぁ、やはり今日も空席か。予想通りだ。クロニオスも、それ以上深くは追及しなかった。
「…定刻になった。これより幹部会議を行う。…と言っても、今日の議題は、これまでの最終確認だ」
サトゥニアはそう言うと、中央の空間に、魔力での文書を浮かび上がらせた。
これまで何度も重ねた話し合いの記録。
ペルセの一件があって以降、動き出した案件だ。
「ダスノムへの調査隊の派遣、及びそれに応じてダスノムの環境改善、再開発。そこに付属して、ベリアスの放置区域も開発する。ここまで、異論はないな?」
サトゥニアの一言に、異論を唱える者はいなかった。
すでに調査隊の編成まで完了しているのだ。ここで中止する方が、筋を通せなくなる。
「特にダスノムについては急務だ。まずは、ベリアスの都市部と同程度に、インフラや施設を整える。必要に応じて、人手を募集する」
サトゥニアはそう言いながら、表示されている文書を一枚めくった。
そこには、工事現場のような写真が載っている。
写真に写っている者の中には、以前バルディ達が捕縛したキーアもいた。
「すでに、ダスノムに溜まっている廃棄物の処理は始めている。あと数日で完了予定だ。一先ず、サトゥニアの処理施設で全て処分した後、開発を行う」
サトゥニアはそう言いながら、さらに一枚文書をめくる。その先には、工場地帯の写真が載っている。以前の会議で出た、ダスノム開発語の完成予想図だ。
「ダスノムについては、最終的に廃棄物の処理施設、そこに工場や研究施設が立ち並ぶような、工業都市として再生する」
サトゥニアの言葉を聞き、アモディエナは提案者であるデメナの方を見る。
デメナは満足そうに頷いていた。
「役割分担については、追って伝えるが…まずは、アモディエナ。貴様の方でダスノムの調査を進めてくれ」
「かしこまりました」
アモディエナは軽く会釈で答える。
すでに、その準備は整っている。今すぐにでも動かせる状況だ。
「…貴様らには、しばらく負担を強いることになる。だが、力を貸してもらうぞ」
サトゥニアの決意が、言葉尻に滲んでいる。
それを止める者は、この場にはいない。
ーーーいよいよ、動き出す。
アモディエナも含め、全員が。
ダスノムの改善のために。
この決断が、魔界を揺さぶることになろうとは、まだ誰も知らなかった。




