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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第四章 家族の絆
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部下の気遣いと上司の本音

「ふぅ…」


 話を終えたデメナが、静かに椅子へと腰掛ける。そんな彼女の眼下に、静かに温かいお茶が差し出された。


「デメナ様。お疲れ様でした」

「…お気遣いありがとうございます、イアノさん」


 仲介をしてくれたイアノが、自分を労ってくれている。デメナは、お茶を一口飲んだ。


 ようやく一息つける。デメナは静かに、息を吐いた。


 すると、イアノが少し躊躇いがちに口を開いた。


「…本当に、よろしかったんですか?」

「何がです?」

「その…連れ戻さなくて」


 イアノがそう言った後、デメナは少し、黙り込んだ。


 イアノが自分を案じていること、そのくらいは分かる。何せ、長年支えてくれた部下なのだから。


「…私が無理にでも、アスティアノからあの子を連れ戻した方が、良かったんですか?」

「そうではないんですが…母娘の時間を増やすことができなくて、辛くはないのか、と…」


 そんなイアノに対し、デメナは柔らかく笑う。

 やはり、イアノの気遣いは、予想通りだった。


 全く辛くない、と言えば、嘘になる。

 一緒にいたいし、寝顔も見たいし、毎日食卓も囲みたい。触れ合いたいし、抱き締めたい。


 でも、イアノも気付いているはずだ。

 無理に自分の意見を押し通せば、かつてペルセを失った時の自分のように、壊れかねない存在がいることを。


「…まぁ…けど、ハイーラさんもすっかり、ペルセさんの保護者でしたからね。無理にその関係を絶つのは、娘にとっても、不幸なことですよ」

「それは…そうですね…」


 イアノはそう言うと、何も言えなくなったようで、俯いた。


 デメナはそんなイアノの方へと歩み寄った。そして、イアノの肩に、そっと手を添えた。


「私は、母親です。一番に願うのは娘の、ペルセさんの幸福。必要なら、私が一歩退きますよ。あなたもいつの日か、母になれば分かるかもしれませんね」


 デメナのその言葉に、イアノは顔をゆっくりと上げる。戸惑いを隠せないようで、視線が泳いでいた。


「おいデメナ」


 部屋の外から、クロニオスの声が聞こえてくる。

 そういえば今日は、とある政策について、幹部会議を行う予定が入っている。すっかり、忘れていた。


「すぐ行きます」


 デメナはクロニオスにそう言うと、イアノの隣を通り抜けた。振り向きもせずに、出口へと向かう。


「…デメナ様…」


 イアノの少し悲しげな声に、デメナは歩みを止めた。


 もう、あまり時間はない。

 デメナは背を向けたまま、独り言のように呟いた。


「そういえば、今回の幹部会議の議題は、『ダスノムの環境・待遇改善政策』について、でしたっけね…」


 そう言った瞬間、背後で、イアノの感情に波が走ったことが、魂を通じて伝わってくる。


 直接関わるだけが、一人の母親としてできる全てではない。

 権力も立場もあるからこそ、ペルセのためになることを全力でやるだけだ。


「おい、早くしろ。夫婦仲良くアモディエナに叱られるのはごめんだぞ」

「そう焦らないでください。すぐ行きますから」


 若干、夫の声色に苛立ちが混ざってきた。

 これは、早く行ったほうが良さそうだ。


 デメナは振り向くことなく、イアノを室内に残し、部屋を出ていった。

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