母の折衷案
一体、デメナは何を考えているのだろうか。
ハイーラもマールも、そしてペルセも、息を呑んでデメナを見る。
デメナは手元に紙を広げている。しかし、そちらには視線を全く向けることなく、口を開いた。
「私の考えたプランをお伝えさせていただきます」
やはり、デメナなりの考えがあるようだ。
まったく、見当がつかない。
「まず、基本的に、ペルセさんはアスティアノのハイーラさんのところに住むのが良いかと思っています」
デメナは淡々と述べている。
ーーー辛くはないのか。
ようやく会えた娘と、一緒に過ごす時間を、自ら減らすような提案だと言うのに。
もし自分がデメナの立場だったら、耐えられる自信がない。母としての立場と、サトゥニア幹部の権限も全て使って、娘を呼び寄せるだろう。
「ただ、これからは、鍛錬に来た際に、私達との家族の時間を設けさせていただきます。…可能なら、泊まりがけも含めて」
最後の言葉に、ペルセが勢いよく顔を上げる。その顔は、驚愕と歓喜の混ざったような、複雑な表情だった。
「お母さん達と、ごはん食べれるの!?一緒に寝れるの!?」
「…はい。それをする時間だけは、設けさせてほしい。それだけが、私の…母としてのワガママです」
デメナはそれだけ言うと、頭を深く下げる。
これには、かなり驚いた。聞いていたマールも、同様のようで、口をあんぐり開けている。
話を聞く限り、愛情深い母親だとは思っていた。
でも、ここまで自分を殺して、娘の、ペルセのことを優先している。
恐らく、本音はずっと一緒にいたいし、一緒に暮らしたいのだろう。でも、それをこちらに強制してこない。
母としての、娘への想いが、あまりにも強い。身内を迫害し続けた、キーアのような者ばかり見てきたハイーラにとって、もはやデメナが未知の存在に見えてきた。
「…お母さん…ありがとう」
隣にいるペルセが、笑っている。しかし、その目からは涙がしたたり落ちていた。
釣られて、泣いてしまいそうになる。
ーーーいけない。
この前も、マールの前で大泣きしたばかりだというのに。
手放さなくていい。
この、大切な子を。純粋なペルセを。
親公認で、自分も関わり続けられる。
しかも、大親友のマールと共に。
ーーーそれがたまらなく、嬉しかった。
「…もちろん、ペルセさんの生活費に伴う諸経費などは、こちらから援助します。毎月、部下のイアノを通じて、送金させていただきます」
頭を上げたデメナは、変わらない冷静な声でそう言った。
いきなり現実的な話をされて、涙が引っ込んでしまった。でも、それがありがたかった。
特にお金には困っていない。しかし、デメナの好意を無下にするべきではないだろう。
「…助かります」
「この方針で、大丈夫ですか?」
「…はい」
デメナの問いに、ハイーラは頷いた。
何だか、こちらを見てるマールの口角が、満足げに上がっている気がする。
ーーー何だか、癪に障る。
だが、何も言えない。何か言う気もない。
今はただ、ペルセと一緒に暮らし続けられる嬉しさを噛み締めていたい。自然と口角が上がっていく。
そんなハイーラを見て、デメナも頬が緩んでいるようだ。穏やかな笑みを浮かべている。
「細かい部分はまた、後日打ち合わせしましょう」
「…わかりました」
ハイーラの返事を聞いたデメナは、最後に会釈をすると、画面の前から離席してしまった。
その直後、画面にイアノが映る。
「…ハイーラさん、よかったですわね」
「はい」
良かった。本当に、良かった。
大切なペルセと、これからも一緒にいられる。それだけで、十分だった。
隣にいるマールもペルセも、嬉しそうだ。
一緒に暮らし続けられる。しかも、親公認の上で、堂々と。
「また、ご連絡する際には、私の方からさせていただきます」
「分かりました」
イアノはそれだけ言うと、会釈の後、画面を切った。
ーーーようやく、終わった。
ハイーラは脱力し、椅子へと寄りかかる。
マールとペルセは、すでに遊び始めている。この光景も、今後も見続けられる。
それが、何よりも嬉しかった。




