ペルセの意志と制度の弊害
空気が固まる。
どういうつもりなのか。
別れるのが、辛いのか。
ペルセは肩を上下させながら、こちらを見つめてくる。目尻には、涙が浮かんでいる。
そんな表情をされても、実の親のもとに行くのが、最も単純だ。その事実は、ハイーラの中では揺るがない。
「…ペルセちゃん?お母さんのもとに、行きたくはないの?」
ハイーラは諭すつもりで、ペルセに声をかける。しかし、ペルセの様子は変わらない。
ハイーラは大人として、辛くても身を引くつもりだったのに。そんな反応をされては、自分の気持ちが揺らいでしまうではないか。
「行きたいよ!!でも、ハイーラさん達と別れたくないよ!!」
「…ペルセ…」
ペルセは涙をこぼしながら、思い切り叫んでいる。
そこには、理屈も何もあったものではない。
一緒にいたい、と言われるのは嬉しい。でも、そんなワガママが通るはずもない。
「だけど、お母さんといるのが、一番単純で…」
「そんなの関係ない!!私は、ハイーラさん達とも一緒にいたいの!!」
ーーーまずい。
このままでは、話が堂々巡りになりかねない。
話題を変えようと何か言おうと瞬間、マールと視線が合った。
マールは何も言わず、ただこちらを見つめてくるだけだ。
だが、長年の付き合いからか、言葉を交わさずともマールの言いたいことが伝わってくる。
「これが、ペルセの意志だよ」…と目線で訴えている。それが、余計に辛かった。
「…なるほど…やはり…」
画面の向こう側で、デメナが顎に手を添え、静かに頷いている。その声にハッとし、デメナの方を向く。
何かを確信したような、そんな表情だ。
一体、何に納得しているのだろうか。
ハイーラはデメナの次の言葉へ、意識を集中させた。
「思った通りです。ハイーラさん達の元から離すべきではありませんね」
その言葉に、ハイーラは頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。
デメナは今、何を言ったか。
ペルセをここに残す、ということか。
母として、自分と暮らしたいわけではないのか。
「あ〜…やっぱり、こうなるか〜」
マールも静かに頷いていた。
まさか、マールも予想がついていたというのか。
もしそうなら、分かっていなかったのは、勝手に結論を急いでいたのは自分だけだった、ということになる。
ーーー自分の目だけが、曇っていたのか。
「…お母さん…?お母さんがこっちに来たりはできないの…?」
ペルセは画面越しの母へ、泣きながら声をかける。
確かに、それならハイーラも納得だ。だが、デメナの顔は浮かない表情だった。
「…それは、できないんです」
「なんで!!」
ペルセは納得がいかないようで、感情的に叫ぶ。
一体、なぜなのか。サトゥニアの幹部であるとはいえ、悪魔であることに変わりはない。
別に、アスティアノで暮らせないわけではないはずだ。
「私達サトゥニアの幹部悪魔というのは、魔力の質がかなり違います。そちらに行くと、魔力インフラ等を、破壊してしまいかねないのです」
「…あぁ…」
そういえば、初めてサトゥニアにお呼ばれした時に、似たようなことをアモディエナが言っていた気がする。
デメナがこちらに容易に来れない理由としては、納得のものだ。
「皆で一緒に、って、できないの…?」
「こればかりは…規則上、そして安全上、できないことなんです。ペルセさん」
ペルセは納得いってなさそうだったが、母の言葉で動きを止めた。
伝えるデメナの顔も、受け止めるペルセの顔も、苦しそうだ。母娘の同じような顔が、似たように歪んでいる。
「…ただ、今生の別れにするつもりは、ありませんよ」
デメナはそう口火を切り、静かに語り始めた。




