実母対保護者
30分後。
面倒くさい、と渋るマールを何とか説得し、三人横並びで椅子に腰掛ける。
ペルセだけは状況が分かっておらず、不思議そうに首を傾げていた。
「…よし、じゃあいくわよ」
ハイーラは覚悟を決め、自身の魔力を練る。そして、その魔力を、先程分かったイアノの魔力につなげる。
画面越しの魔力通話のために、必要な手順だ。
しばらくすると、ハイーラ達の前の空間が揺らいだ。魔力の渦が回りながら、ドンドンと画面を形作る。
その画面には、まだノイズが入っている。だが、それも次第になくなっていく。
「ん…これで、いいですわね」
その向こう側には、画角を整えるイアノの顔が映っている。しばらく調節をした後、その顔は遠ざかっていった。
そして、イアノが退いた先に、別の悪魔の顔が映り出す。
「あ、お母さんだ!!おかあさーん!!」
それを見て、ペルセが嬉しそうに声を上げる。
この方が、ペルセの母親なのか。
ペルセの母・デメナ。娘と同じ髪の色で、ハーフアップの美しい女性だ。
何よりーーーその顔が、写真で見た以上に、ペルセそっくりだった。
デメナは娘の言葉に、静かに、しかし穏やかに笑みを浮かべ、手を振って応えた。
「す、すみません。ペルセちゃん、今からお話するんだから…」
「全く問題ありませんよ。むしろ、嬉しいものです」
ハイーラは慌ててペルセを宥める。これから話をする相手は、自分よりも圧倒的に格上の、サトゥニアの幹部なのだから。
決して、無礼があってはならない。
しかし、デメナは全く気にしていないどころか、むしろ少し嬉しそうに笑っていた。
ーーーやはり、母親だ。血のつながった家族。
自分では、敵わない。
否が応でも強く、そう感じてしまう。
「さて…ハイーラさんとマールさん、でしたね。娘がお世話になっています。ペルセの母の、デメナと申します」
「いっ…いえっ…!!」
デメナは画面の向こう側で頭を下げる。
その様子に、ハイーラは言葉を詰まらせた。
自然と背筋が伸び、息が浅くなる。魔王であるサトゥニアと対峙したときとはまた違う緊張感だ。
「…ハイーラ〜、ちょっと落ち着きなよ〜?」
「無理よ!!つか何であんたはそんなに冷静なの!?」
「いや、緊張してても仕方ないし〜」
対照的に、マールはむしろリラックスしている。画面越しであるため、多少だらけてもバレてない、とでも思ってるのだろうか。
胸元までしか映さないようにして、正解だった。ハイーラはマールを見て、静かにホッとした。
「…今回お話したいことは、ペルセさんの拠点をどこにするか、ということについてです」
言い合いが終わるのを見届けたデメナが、口を開く。その発言に、ハイーラはハッとする。
ーーーついに、来た。
この瞬間が、来てしまった。
ハイーラはそう思い、先に口を開いた。
「私は…実の両親の元で暮らすのが一番いいと思います」
その発言で、デメナとペルセが全く同じような顔でハイーラ達を見つめてきた。
マールでさえも、信じられないものを見るような様子で、目を見開いていた。
「…なるほど」
デメナは静かに頷く。
キーアのように、身内を傷つける者も確かにいる。だが、傷付いたペルセがあれだけ甘え、はしゃげる相手が、ペルセを愛していない親なわけがない。
こうするのが、丸く収まる。ハイーラは本気で、そう思っていた。だがーーー
「なんでそんなこと言っちゃうのさハイーラさん!?」
沈黙を破ったのは、デメナでもマールでもない。
今にも泣きそうな顔をした、ペルセだった。




