マールの手料理
「…ふう…」
シャワーを浴び終え、ペルセは着替えた。
いつも着ている、黒いワンピース。
最初は、着方も分からなかった。
でも、もうすっかり着慣れたものだ。
ドライヤーで髪を乾かし、二つ結びにする。
マールやハイーラから身だしなみを教わり、大分様になってきた気もしている。
「…よし」
鏡で自身の姿を確認する。
完ぺきではない。でも、なかなか良い感じにできた。
これ以上時間をかけると、味噌汁が冷めてしまう。
ペルセは急ぎ足で風呂場の外へ出た。
そこには、ハイーラが待っていた。
先ほどとは異なり、いつも通りのハイーラの顔だ。
「…ちゃんと、自分でできたわね。いいじゃない」
ハイーラはペルセの姿を見て、嬉しそうに頬を緩めた。
褒められて、ペルセの口角も自然と上がる。
ペルセが入浴している間に、ハイーラは顔を洗い終わっていたようだ。何だか、スッキリしたような表情をしている。
「…戻りましょうか」
「うんっ!」
ハイーラはペルセの手を握ってきた。
ペルセはその手を握り返し、嬉しそうに歩き出した。
「あ〜、お帰り〜」
リビングでは、マールが準備を完全に終わらせているようだった。マールはすでに、椅子に腰掛けて、二人を待っていた。
机の上には、味噌汁と白飯が三人分、配膳されている。味噌汁からは、まだ湯気が上がっていた。
ペルセ達はいつもの席に座った。
味噌汁の中身は、豆腐と油揚げに、ネギ。非常にシンプルなものだった。
「勝手に台所の食材使っちゃってゴメンね〜」
「そこは別にいいのよ。…つーかさ…」
ハイーラはマールに特に責め立てる様子はない。ただ、まだ言葉が続きそうだ。
マールは不思議そうに首を傾げている。
「あんた、料理できるのね」
「シンプルなものならね〜」
「…普段からやりなさいよ」
ハイーラは深く息を吐いた。マールはそれに対し、何も気にした様子もなく、静かに笑っているだけだった。
シンプル?
味噌汁を作ることが?
以前、味噌汁の作り方をハイーラに教わろうとした。だが、手順が多過ぎて、ペルセはオーバーヒートしてしまったことを思い出した。
ーーーマールは、別に家事スキルが低いわけではないようだ。
ただ、やらない、やる気がないだけで。
実際、目の前にある味噌汁からは、お腹のすく美味しそうな匂いが漂ってきている。
ペルセは、そろそろ我慢の限界だった。思い切り、手を合わせる。
「いただきまーす!!」
ペルセはマール達の返事も待たず、入ったお椀を両手で持ち、そのまま味噌汁を口に運んだ。
ーーー美味しい。
ハイーラの作るものとは、少し違う。マールのは、ちょっと味が濃い。
中の具材の切り方も、かなり粗い。
豆腐と厚揚げを口に運ぶ。
味噌の味が染みてて、これらも美味しかった。
「…どうやら、ちゃんと作れてるみたいね」
ハイーラも白飯を食べながら、うんうん頷いていた。どうやら、普段料理を作るハイーラも納得の味らしい。
「いつも作るのは勘弁だよ〜。ハイーラの方が上手なんだし〜」
「安心しなさい。あんたにそんなマメなこと期待してないから」
「ひど〜い」
相変わらず、マールへの扱いが雑だ。
でも、マールがその気になれば、ちゃんとご飯を作れるのか。
もちろん、ハイーラの作るご飯は美味しい。
ーーーでも、マールの作るご飯を、たまに食べてみるのも良いかもしれない。
そしていつか、自分がハイーラ達に料理を振る舞う日が来るのかもしれない。
それも、『家族』なのだろう。
そう思いながら、味噌汁を飲む。
やっぱり、暖かった。




