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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第四章 家族の絆
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絆の『形』

 ハイーラは、何も言えなくなった。

 頬を流れ落ちる水滴の感覚が、やけに鋭敏に感じる。


 マールはそんなハイーラを気にする様子もなく、言葉を続けた。


「だってさ〜…あなた、今回の一件で私より怒ってたじゃん?」

「…それは…あんたの代わりに…」


 ハイーラは口ごもる。

 マールが責めてるわけではないのは分かる。だが、言葉がうまく出てこない。


「それってさ〜…私と血の繋がりがあってもなくても、関係なかったでしょ〜?」


 マールは髪を梳かしながら、世間話のようなトーンで言っている。しかし、ハイーラの胸の奥に、真っ直ぐに刺さった。


 確かに、ハイーラからマールを見放したり、捨てたりするつもりは毛頭ない。だが、その理由に血の繋がりなんてものは入っていない。


「あとさ〜…ハイーラ、キーアがやってた私の扱いに関して、親と揉めて縁切りまでしたでしょ〜?」

「えっ!?あんた、それ知ってたの!?」

「知ってたよ〜」


 マールからさらっと言われて、ハイーラは驚いた。

 その情報、マールには特に話していなかったはずなのに。


 ーーー本当に、コイツには隠し事ができない。


「…まぁ、何が言いたいかっていうとね〜…」


 マールは静かに笑いながら、ハイーラの背後に回った。


 そして、そのまま後ろから抱きしめてきた。


「…マール?」

「大切な人ってのは〜…血の繋がりだけじゃないんじゃな〜い?少なくとも、昔のあなたにとってはさ〜」


 マールの顔が、ハイーラの耳元に近づく。

 いつもの、眠そうな表情だ。


 ハイーラは、マールの手に自身の手をそっと重ねる。風呂上がりだからか、しっとりしていて温かい。


 思えば、マールにバックハグをされるのなんて初めてだ。


「…ペルセにしてもそうだけどさ〜…まぁ、あの子が実の親の方を選ぶなら、それはそれで、あの子の選択だよ〜」


 マールは天井を見上げている。

 何だか、嬉しそうに唇の端が少し上がっている。


 ペルセ自身の選択。それは、頭では理解しているつもりだ。

 でも、理屈で分かってても、感情はついてこない。


 ハイーラの肩が震える。このままいると、全部こぼれ落ちてしまいそうだ。ハイーラは、息を整えて、何とか必死に堪えていた。


「まぁ〜…もし、私たちがペルセと離れちゃうことになったら〜…。そうだな〜…」


 マールは天井を見上げたまま、何かを考えていた。


 これ以上、何を言うつもりなのか。


「…やけ酒でもやけ食いでも、いくらでも付き合ってあげるよ〜」


 その一言が、もうダメだった。

 辛うじて保っていたものが、音もなく決壊した。気付けば、視界がにじみ始めていた。


「ううっ…ふぐぅうぅっ…!!」


 マールの手を強く握りしめ、何とか涙を止めようとする。だが、もう止められなかった。


 声だけは出さないように、何とか口をつぐむ。

 しかし、どうしても嗚咽は漏れてしまっていた。


「…最近、何だか泣き虫だね〜」

「るっ…さい…!!誰の、せいよ…ッ!!」


 すっとぼけたことを言うマールを、涙に塗れた顔で睨んだ。


 本気でマールが戸惑ってるのも、何だか腹が立つ。

 それでも、マールの前でなら、泣ける。

 絶対に、大丈夫だと思えた。


「あなたと同じだよ〜。誰と一緒にいたいかってのは、本人が決めること。私達が、ああだこうだ言えることじゃないんだよ〜」


 マールは、より強くハイーラを抱き締めてくる。同時に、ハイーラの頭に軽く手を添えてきた。


 ーーーあぁ。今だけは。

 子供のように甘えてしまうこと、許してほしい。


 ハイーラは声を抑えつつも、マールの腕の中で、泣き続けた。

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