絆の『形』
ハイーラは、何も言えなくなった。
頬を流れ落ちる水滴の感覚が、やけに鋭敏に感じる。
マールはそんなハイーラを気にする様子もなく、言葉を続けた。
「だってさ〜…あなた、今回の一件で私より怒ってたじゃん?」
「…それは…あんたの代わりに…」
ハイーラは口ごもる。
マールが責めてるわけではないのは分かる。だが、言葉がうまく出てこない。
「それってさ〜…私と血の繋がりがあってもなくても、関係なかったでしょ〜?」
マールは髪を梳かしながら、世間話のようなトーンで言っている。しかし、ハイーラの胸の奥に、真っ直ぐに刺さった。
確かに、ハイーラからマールを見放したり、捨てたりするつもりは毛頭ない。だが、その理由に血の繋がりなんてものは入っていない。
「あとさ〜…ハイーラ、キーアがやってた私の扱いに関して、親と揉めて縁切りまでしたでしょ〜?」
「えっ!?あんた、それ知ってたの!?」
「知ってたよ〜」
マールからさらっと言われて、ハイーラは驚いた。
その情報、マールには特に話していなかったはずなのに。
ーーー本当に、コイツには隠し事ができない。
「…まぁ、何が言いたいかっていうとね〜…」
マールは静かに笑いながら、ハイーラの背後に回った。
そして、そのまま後ろから抱きしめてきた。
「…マール?」
「大切な人ってのは〜…血の繋がりだけじゃないんじゃな〜い?少なくとも、昔のあなたにとってはさ〜」
マールの顔が、ハイーラの耳元に近づく。
いつもの、眠そうな表情だ。
ハイーラは、マールの手に自身の手をそっと重ねる。風呂上がりだからか、しっとりしていて温かい。
思えば、マールにバックハグをされるのなんて初めてだ。
「…ペルセにしてもそうだけどさ〜…まぁ、あの子が実の親の方を選ぶなら、それはそれで、あの子の選択だよ〜」
マールは天井を見上げている。
何だか、嬉しそうに唇の端が少し上がっている。
ペルセ自身の選択。それは、頭では理解しているつもりだ。
でも、理屈で分かってても、感情はついてこない。
ハイーラの肩が震える。このままいると、全部こぼれ落ちてしまいそうだ。ハイーラは、息を整えて、何とか必死に堪えていた。
「まぁ〜…もし、私たちがペルセと離れちゃうことになったら〜…。そうだな〜…」
マールは天井を見上げたまま、何かを考えていた。
これ以上、何を言うつもりなのか。
「…やけ酒でもやけ食いでも、いくらでも付き合ってあげるよ〜」
その一言が、もうダメだった。
辛うじて保っていたものが、音もなく決壊した。気付けば、視界がにじみ始めていた。
「ううっ…ふぐぅうぅっ…!!」
マールの手を強く握りしめ、何とか涙を止めようとする。だが、もう止められなかった。
声だけは出さないように、何とか口をつぐむ。
しかし、どうしても嗚咽は漏れてしまっていた。
「…最近、何だか泣き虫だね〜」
「るっ…さい…!!誰の、せいよ…ッ!!」
すっとぼけたことを言うマールを、涙に塗れた顔で睨んだ。
本気でマールが戸惑ってるのも、何だか腹が立つ。
それでも、マールの前でなら、泣ける。
絶対に、大丈夫だと思えた。
「あなたと同じだよ〜。誰と一緒にいたいかってのは、本人が決めること。私達が、ああだこうだ言えることじゃないんだよ〜」
マールは、より強くハイーラを抱き締めてくる。同時に、ハイーラの頭に軽く手を添えてきた。
ーーーあぁ。今だけは。
子供のように甘えてしまうこと、許してほしい。
ハイーラは声を抑えつつも、マールの腕の中で、泣き続けた。




