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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第四章 家族の絆
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保護者の葛藤

 夜中。


 ご飯を食べてすぐ、鍛錬の疲れもあったのか、ペルセは寝てしまった。


 明日朝、シャワーを浴びてもらわないといけない。ベッドで眠るペルセの顔に、ハイーラはそっと手を添えた。


「…私たちの役割も、おしまいかしらね」


 ハイーラは独り言のように、小さく呟く。当然、返事はない。誰にも、聞かれていないのだから。

 ハイーラは静かに踵を返し、寝室を出た。


 ハイーラは廊下を歩く。

 静かな空間に、足音だけが響いていた。


 ーーー自分たちはあくまでも、暫定的な保護者。

 血の繋がりはない。困っている子供がいたから、世話を焼いた。ただ、それだけのはずだった。

 でも、ペルセはもう、本当の家族と再会できた。あの子を、誰よりも愛している両親と。


 すなわちーーー自分達がペルセの保護者をやる理由も、もうない、ということだ。


「…はぁ…」


 気づいた時には、リビングに到着していた。

 先程まで、三人で囲み、お祝いのすき焼きを食べていた机。笑い声の絶えなかった空間。

 今ではすっかり、ただの木の机に戻っている。


 ハイーラは、深くため息をつきながら、椅子に腰かけた。


 いつか、こんな日が来るとは覚悟していた。

 ペルセが、本当の親元へ旅立つ日。別れの日を。


 だからこそ、ペルセが親と会うときには、一言伝えるように約束したのに。まさか、向こうからやってくるとは思わなかった。


 静かな空間。椅子の軋む音だけが聞こえる。

 胸から熱いものがこみ上げてくる。油断すると、我慢ができなくなりそうだ。


「…うぅっ…」


 目頭を押さえる。こうしなければ、耐えきれない。

 直感的に、そう感じた。


 こんなに、寂しい。こんなにも、離したくない、と思ってしまう。

 めでたいことのはずなのに。ペルセを、あの可愛い子供を。自分の元に引き留めたくなってしまう。


「…電気もつけずに何やってるの〜?」


 いきなり、部屋が明るくなる。

 ハイーラは驚き、声の聞こえる方へ視線を向ける。


 そこには、シャワーから戻った呆れ顔のマールが立っていた。

 まだ、長い髪が濡れている。ドライヤーすら使わない相変わらずのズボラさに、何だか安心すら覚える。


「…何でもないわ。ちょっと、ね」

「ペルセのことでしょ〜?」


 ーーーやはり、見抜かれている。

 普段は雑なのに、こういう時にだけ妙に鋭い。そんなマールの前で、隠し事はできない。


 ハイーラは自嘲気味に、静かに笑った。


「あの子…両親に会ったのよね?」

「そうみたいだね〜」


 マールはタオルで髪を雑に拭きながら、ハイーラの質問に答える。さして興味はなさそうだが、それが逆に、今のハイーラにはありがたかった。


「そうなるとさ…私達の保護者としての役目も、終わりじゃない?」


 その言葉に、マールの動きが止まる。

 ハイーラがマールの方へ視線を向けるも、タオルに隠れてその表情は見えなかった。


 ただしーーータオルの向こう側で、大きくため息をついたのだけは、聞こえてきた。


「…あのさ〜…私が、身内に虐げられてきたことを知ってて、そんなこと言ってる〜?」


 マールは、呆れてるような様子だ。


 無論、知らないはずがない。むしろ、知ったうえで、バルディやキュエル家等、周りを大きく動かしてまで清算したのだ。


 マールはそのままこちらにゆっくりと近づいてくる。

 マールに、見下ろされる。全く怖くはないし、普段通りの光景だ。だが、不思議と背筋が伸びる。


「…私の知るあなたは、それだけことで身を引く悪魔ではなかったと思うよ〜?」


 マールのその言葉と同時に、彼女の髪から水滴が垂れ、ハイーラの頬に落ちた。

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