幸福の食卓
何だか、現実感がない。
嬉しすぎて、未だに感覚がフワフワしている。
お父さんもお母さんも、自分を一切拒まなかった。
別れるときは落ち着いていたが、時間が経つにつれ、その実感が湧いてきた。
ーーー本当に、お父さん達と会えたんだ。
気づいた時には、すでにイアノと別れて、ハイーラ達の家の前に立っていた。
どうやって帰ってきたのか、全く記憶にない。イアノと何を話していたのかさえも、曖昧だった。
「…ハイーラさ〜ん、ただいま〜」
「お帰り〜」
ペルセは玄関に魔力を流し込み、家の鍵を慎重に開けた。
すると、ハイーラが奥の方からエプロン姿で現れ、出迎えてくれた。
…普段から趣味でエプロンドレスを着ているのに、その上からエプロンをつけて意味があるのだろうか。
「鍛錬お疲れ様。お腹すいたでしょ?ご飯、もう少しだから」
そんなどうでもいいことを考えているうちに、ハイーラはいつものようにそう言うと、台所へ慌ただしく戻る。
ーーーやっぱり、ここはここで落ち着く。
ペルセの頬が、さらに緩む。
机の上を見ると、すでに鍋が準備されている。その周りに、ネギやしいたけ、そして肉まで置かれている。
「…今日、すき焼き…?」
これは、何の偶然だろうか。
もちろん、ハイーラは狙って用意しているわけではないはずだ。
だが、すき焼きと言えば、豪華な食べ物だ。前に、ハイーラ達からそう教わった。
これは、早々に席につかなければ。そう思ってると、眠そうなマールが、目を擦りながら姿を現した。
「ん〜…眠い〜…」
完全に、寝起きのようだ。服も乱れてるし、寝癖もついている。自分が鍛錬で出ていった後、かなり長い時間寝ていたようだ。
マールは机の上に準備されてるすき焼きに視線を向けると、小さく感嘆の声を漏らした。
「…本当にすき焼きだぁ〜」
マールはそう言いながら、ふらつきながら椅子に腰掛けた。ペルセも、それに続くように椅子へと座った。
もしかして、マールは今日の晩ごはんがすき焼きだと聞いていたのか。もし事前に知ってたら、もっとお腹をすかしてきたというのに。
「も〜…こんなことしなくてもいいのに〜…」
「正式にあんたの存在が認められたのよ?お祝いしないわけにはいかないでしょ」
マールは少し気怠げに肩を落としているが、ハイーラは嬉しそうに追加の材料を持ってきた。
ニコニコしながら椅子に腰掛けると、鍋の中に入っている肉や野菜を取り分け、ペルセ達の前に差し出してきた。
何だか、自分だけ野菜が多い気がする。あまり、野菜は好きではないのだが…よそってもらってる以上、ハイーラに文句を言うことはできなかった。
「じゃあ…マールの復活をお祝いして…いただきましょう?」
取り分け終わったハイーラはそう言うと、マールの方を真っ直ぐに見た。一方のマールは、少し居心地悪そうに、視線をそらしている。
「も〜…」
「そんな顔しないの。今日はお祝いで、奮発したんだから!」
ハイーラは本当に嬉しそうに笑っている。マールのことが本当に、家族のように大切なのだろう。
ーーーいつの日か、自分にも。
サトゥニアで会ったお父さんやお母さんと、こういうことをする日が来るのだろうか。
ふと、そんなことが頭を過った。
三人で鍋を囲い、母・デメナが肉や野菜を取り分ける。その取り分けへ文句を言いつつも、料理に舌鼓を打つ父・クロニオス。
そして、そんな二人から、具材を取り分けてもらいながら、美味しく食べる自分。その様子を、両親が穏やかに見つめている。
そんな光景が、脳裏に浮かんだ。
「…えへへ…」
何だか、幸せだ。
ペルセの頬が、緩みきってしまった。




