親子再会の終幕
そんな空気が、しばらく続く。
ずっと、このままでいられるのではないかと思えるほどに、幸せな時間だった。
すると、そんな空気から引き戻すように、大きな咳払いが聞こえてきた。
「…あ〜…そろそろ、いいか?」
音のする方を見ると、そこにはアモディエナがいた。しかも、かなり気まずそうな表情を浮かべている。
もしかして、ずっとこの場にいたのか。完全に、存在を忘れていた。
ーーー何だか、急に恥ずかしくなってきた。
でも、クロニオスの腕の中から降りようとは思わなかった。
居心地と安定感が、段違い過ぎる。
しかし、アモディエナの次の一言で、ペルセも現実に戻された。
「…ペルセ。そろそろお迎えの時間だ。ハイーラ達がお前の帰りを待っているぞ」
ーーーそうだった。
今はここに、鍛錬で来ただけだった。
あまり遅くなると、ハイーラ達が心配するだろう。
それは、分かっている。
それでも、離れたくはない。ペルセは、クロニオスのスーツの裾を掴んだ。
「…あの…もう少しだけ、このままではダメですか…?」
ペルセはアモディエナに、精一杯のわがままを言った。クロニオスに抱き上げられたままのデメナまでも、不満そうに口をとがらせている。
それに対し、アモディエナはため息をつきながら、頭を抱えた。
「…イアノが来るまでの間だけだぞ」
呆れながらも、許可がもらえた。
ペルセはその言葉を聞き、ホッとしたように、クロニオスの胸元へ再び体を預けた。
「…ったく…母娘揃って、お前らは…」
クロニオスまでも、少し呆れているようだ。だが、そう言いながらも、奥ではかなり喜びが滲んでいた。
デメナもそれに気付いたのか、何だか楽しそうに口元を緩めている。
「そう言いながら、嬉しそうじゃないですか」
デメナのその言葉に、クロニオスは鼻で笑うだけで、何も反論しなかった。
この二人は本当に、お互いのことをよく知っている。
自分もこれから、これからこの二人のことを知っていきたい。
強く、そう思った。
すると、鍛錬室の扉がゆっくりと開かれた。そこには、イアノが立っていた。
イアノは繰り広げられている光景を見て、一瞬固まった。
「…えーと…」
イアノは近付きつつも、戸惑いを隠せないようだった。なかなか、珍しい表情を浮かべている。
同時に、ペルセの体がクロニオスの体から引き離され、地面に降ろされた。
ーーー何だか、寂しい。
もっと、抱っこされていたかった。
父の顔が、遠くなってしまった。
首が痛くなるほどに見上げないと、見えなくなってしまった。
「…ペルセちゃん。帰りましょうか」
イアノに声をかけられ、ペルセはそちらへ視線を向ける。目の前に、イアノの手がそっと差し出される。
ペルセはイアノの手を握る。
いつもと変わらない、優しい手だった。
「ペルセさん…!」
「…今生の別れじゃねぇんだ。また、会える」
今にも駆け出しそうなデメナを、クロニオスが抑えながらそう言った。
ペルセは、両親の方へと向き直った。
「…パパ、ママ。バイバイ…。また、会おうね」
ペルセは小さく、二人に手を振った。
その言葉に、再びデメナ達がぴたりと止まった。
「…イアノお姉ちゃん、行こっか」
ペルセはそれを見届け、二人に背中を向けた。
イアノは小さく頷き、ペルセの手を引いた。
ペルセの頬は自然と緩み、足取りは非常に軽くなっていた。




