表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/43

38話

 足が震えているのがわかった。


(大丈夫、落ち着いて。もう怖くなんてない……!)


そう自分に言い聞かせながら、私はゆっくりとパーティ会場の中心へと歩みを進めた。煌びやかなシャンデリアが輝き、数多の視線が一斉に私へと向けられる。


昔はこの視線が怖かった。『聖女』としての役割を果たさなければならないという重圧。誰もが私を見つめ、何かを期待し、『聖女らしい言葉』を待ち続けていた。


けれど、今は違う。


(私は、自分の意思でここに来た。誰のためでもなく、自分のために戦うために来たんだ)


そう心に刻み込みながら、私は視線を前へと向け続けた真っ先に目に入ったのは、レオナード様の姿。壁際で護衛に徹しているが、その鋭い目が一瞬だけ私に向けられた。


気づいてくれたのだ。


彼は目を細め、わずかに頷いてくれた。その仕草だけで、胸が不思議と温かくなった。


(大丈夫……ここには、味方がいる)


ふと、目の前に王の険しい顔が目に入った。


「セシリア……!」


低い怒声が飛んでくる。


(昔なら、きっとこの怒りに怯えていたはずだ)


あの声を聞くたびに、いつも胸が縮こまるような感覚があった。でも、今は違う。私には、エマがいる。フランツさんがいる。レオナード様がいる。そして、


「どうか、皆様、静粛に!」


フィオルド公爵の響き渡る声が、会場の喧騒を一気に沈めた。彼は舞台の上の俳優のように、堂々と両手を広げ、視線を一身に浴びている。


「なぜ、ここに本物の聖女セシリア様がいらっしゃるのか、その理由を、今からご説明いたしましょう!」


彼の声に、貴族たちは一気にざわつき始めた。


「どういうことだ?」


「聖女は亡くなったと聞いていたが……?」


「本物の聖女だと……?」


次々と疑問の声が飛び交う中、公爵は堂々と舞台の主役を演じ続けた。


「まず、皆様にとある事実をお見せしようと思います」


公爵が手をひらりと上げると、黒いスーツを着た男が歩み寄り、彼に一束の紙を渡した。それは、厚みのある紙の束。一目見て、ただの文書ではないと分かった。


「ここには、ある『取引の内容』が記された手紙があります」


その言葉を聞いた瞬間、王が明らかに顔を強張らせた。


「黙れ! フィオルド!」


王の怒声が飛び、彼は勢いよく王座から立ち上がった。その様子に、貴族たちも他国の王族たちも、次々と視線を向け始めた。


動揺している。間違いない、これは核心を突いているものなのだ。私は、公爵の横に立ちながら、じっと王の動きを見つめた。


「皆様、これは何かご存知ですか?」


フィオルド公爵は、白々しく紙束を手に取り、高く掲げていた。


「こちらの手紙には、なんと、『この国の王が、隣国の革命軍と武器の密輸を行い、その対価として金銭を受け取っていた』そのすべての記録が、ここに記されております!」


(……っ!!)


その瞬間、会場が大きなどよめきでシャンデリアが揺れた。


「な、な……!?」


「密輸だと!? 隣国の革命軍に!?」


「それが本当なら……我が国の信用は失墜するぞ!」


驚愕の声が一気に上がり、貴族たちの表情が困惑から恐怖へと変わっていくのが見て取れた。


「フィオルド! それをよこせ!」


王は、舞台を駆け降りようとしたが、その前に立ちはだかったのは、隣国の兵士たち。


「動くな、王」


兵士の隊長らしき男が、冷たく短い言葉を王に向けた。


(どうして隣国の兵士が……?)


いや、違う。これは、公爵の策略だったのだ。


「王よ、焦るな」


隣国の王が、静かに歩み出てきた。彼の目は、先ほどまでの穏やかなものとは違う。


「その取引の証拠を、こちらに見せてもらおうか」


隣国の王は、公爵の手から手紙の束を受け取った。王様が血相を変えて叫んだ。


「やめろ! その手紙は捏造だ!」


だが、もはや手遅れだった。隣国の王は、ゆっくりと手紙の束を開き、目を通していく。


(……ここからが本番だ)


私は、フィオルド公爵の隣で静かに見守った。手紙を1枚、また1枚とめくるごとに、隣国の王の顔が赤くなっていく。次第に彼の手が震え、目を見開いたまま手紙から目を離さなくなった。


「……これは……」


隣国の王が、声を震わせながら、ようやく口を開いた。


「何年も悩まされてきた忌まわしき革命軍への武器の供与だと?」


その言葉が放たれた瞬間、会場の空気が凍りついた。


「おい、待て」


「いやいや、どういうことだ?」


「革命軍……だと? 何人が犠牲になったと思ってる……?」


貴族たちが怯えたように互いを見つめ合う。


王の声が再び飛んだ。


「違う! それは偽造だ! 偽造だと言っている!」


だが、その声は、もはや誰の心にも届いていなかった。フィオルド公爵が、勝ち誇ったように笑う。


「さて、王様……ここで、なぜセシリア様が今まで姿をくらましていたのか、気になりますよね?」


彼の言葉は、王の最後の言い訳すらも許さないものだった。


私は、レオナード様の方を見た。彼は私を見て、静かに頷いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ