02_06_07
「ティナはともかく、あのスクラップ野郎にも追いつかれるとはな…」
針葉樹林帯を抜けていくビフ。その木々の向こうに、白く噴き出す水蒸気と、エメラルドグリーンの水面が、キラキラと輝いているのが見えた。
ウエストサム湖だ。
ウルフピンクと、オセロットシルバーがの追い上げで、ライダーたちのペースが上がっている。そのため、レースの終盤で、参加しているライダー達全員が、トップを狙えるポジションになりつつある。
「少し手加減しすぎたかな?」
ちらと後方の様子をうかがうビフ。オセロットイエローと、ウルフブルーが後方に張り付いている。ゴール前まで勝負はわからない。だからどんなレースも、デットヒートが熱いほど面白い。
「だが、チェッカーフラッグは譲ってやらん」
ビフは、後ろでちらついて消えないその姿を、鼻であしらい、それをかき消すように、ワイヤーアンカーを撃ちだして次の幹へと乗り移っていった。
「少しだけ、先の借りは返せたかな?」
と、前方を飛び交う黒い狼の影を追うオセロットイエロー、エンディは、機体を見失わないようにその後ろを追っていく。連続して木々を越えていくも、その差は縮まるようで縮まらない。バックモニタで後方の様子を探るエンディの目に、ウルフブルーの姿がちらちらと垣間見える。後方からは、ウルフピンクカルラとオセロットシルバーティナも迫ってきている。
さすがと感心するエンディ。
でも、私だって、2位で。いやいやできれば1位してゴールして大金星、と心では思っている。うかうかしてはいられない。
「勝つのは私、そうでしょエンディ!」
心の中で自分を鼓舞すると、ウルフブラック、ビフの背中を睨みつけ、針葉樹林帯を進む空中軌道のペースを上げて行った。
「ちっ!俺としたことが」
木々の間を行くウルフブルー、クランが、先ほどのイエローにしてやられたことに舌打ちをする。致命的な遅れは取っていない。ウエストサムループロードに合流する前に射程圏に入れないと、と気持ちの焦りを感じながら、ウルフブルーの速度を上げるクラン。モニタ上の推奨ルートを確認すると、後方から、ウルフピンクとオセロットシルバーが迫ってきているのが見えた。アクロバティックな空中軌道のライドでは、向こうのほうがスキルは上手なのか、二人の光点はぐんぐん迫ってきている。
「このままだと、ウエストサム湖ループロードまでに並ばれる」
クランはそう感じると、目の前を進むオセロットイエローを見つめた。
「ウルフィ、オセロットイエローの予測ルート」
モニタ上のイエローの光点から矢印が伸びる。前方のイエローの軌道に合わせるように、ウルフブルーの機体を大きく跳ね上げると、眼下にグランドループロードが交差するように過ぎ去っていった。樹林帯が緩やかに傾斜をしていき、ウエストサム湖の水面が、より鮮明に近づいてきた。
先を急ぐウルフブラウン、ベルは、ウルフピンク、カルラとオセロットシルバーの、その動きの速さとワイヤー軌道の半径の大きさに感心しながら、ぎりりと歯を食いしばった。
「なんてマニューバ…、でもついていけないわけじゃない!」
オセロットシルバーの機体は常に視界にとらえている。その時、不意に、カルラのメッセージが頭をよぎった。
ペースメーカーを私に。
忌々しく眼を細めるベル。ウルフブラウンの身をひるがえして、グランドループロードの交差ポイントを飛び越えていく。前方にはシルバーとピンクの機体、そしてその先には、トップ集団の三機の機影が、湖面の光に反射して機体の照り返しがチカチカと光っていた。後方にはオセロットグリーン、あの飛び入りアメフトライダーが迫ってきている。どちらも肉眼で見える距離だ。
「エステート学園なんて弱小を相手に!」
ウルフブラウンは、枝葉にワイヤーを這わせると、空中ブランコのように機体を振り前方に飛び出していった。
オセロットシルバー、ティナは、目の前で飛び交うウルフブラック、ビフとオセロットイエロー、ウルフブルーの三機を視界に抑え、そのルートを探ろうと目を凝らした。下手に仕掛けると、直近のウルフブブルーとピンクが、連携してこちらの足止めを図るかもしれない。ティナは、オセロットシルバーをウルフピンクのアウトからペースを上げて、ウルフブルーの空中軌道を追跡し始めた。
クランは自分の後方にオセロットシルバーが迫ってくることに気づくと逆方向へ舵を取り、ウルフピンクの軌道上へと接近していった。ウルフピンクは、オセロットシルバーにスピードを合わせると、お互い並走する形になり、二機がややもみ合っていく。その瞬間、ウルフブルーが大きく飛翔して森の中へ離脱した。
「しめた!」
ウルフブルーが距離を取ったことに気づいたオセロットイエローのエンディは、ブルーとは逆のルートに飛び出し、ウルフブラック、ビフの左側後方へ回り込んだ。モニタ上の推奨ルートが、ウルフブラックに対して、ウエストサム湖ループロードの合流路の内側に潜り込んでいく。
「抜いてやる、ウルフブラック!」
上体を前のめりにすると、エンディは、前方へ大きく飛び出した。
「追いついたぞ!オセロットシルバー!」
ウルフブラウン、ベルがオセロットシルバーの斜め後方に張り付くと。モニタ上のウルフピンクとブラウンの予測ルートがオセロットシルバーの前方で交差する。その交差点をスピードで突破しようとするティナだったが、一歩、ウルフピンクとブラウンのスピードが速かった。
「おちろ!」
枝葉を蹴ってオセロットシルバーの上方に飛び出るウルフブラウンの足がオセロットシルバーに迫る。
「ティナ!」
オセロットグリーンがオセロットシルバーの下方から迫ると、その足を蹴り上げ、二段ジャンプさせた。
「何!」
ウルフブラウンとの接触を逃れるオセロットシルバーは、そのまま大きな枝に手をかけると、くるりと一周すると、前方へと軌道を立て直していった。
「どうだ!ティナ!」
叫ぶマガネも幹をワイヤーアンカーでつかむと、大きく旋回して飛び上がり、軌道を修正して、前方に加速していく。アウトコースに大きく外れたウルフピンクが機体を立て直した。木々の間に見え隠れする湖面の光を頼りに、オセロットシルバーもワイヤーを射出すると。90度回転して先頭集団に向かって飛び出していった。
ウエストサム湖の湖面の輝きがシールドにまぶしく反射する。ベルが目を細めると、ループロードの合流路の向こう、エメラルドグリーンの波間に向かって、ウルフブラックと、オセロットイエローが飛び出していくのが見えた。
ワイヤーを撃ちだし、ウルフブラックの左内側をかすめるように加速して行くオセロットイエロー。目の前の樹林帯がはけていく中、ウルフブラック、ビフも重ねてワイヤーを撃ちだすと、大きく半円の軌道を描くように二機のルートが重なった。
遠心力にあおられながらエンディが、ウルフブラックをちらと見ると、ビフはシールド越しににやっと笑ったように見えた。瞬間、ウルフブラックがアウトから加速するとするりと前方に抜けていった。
「え?」
エンディにはウルフブラックがまるで消えたように見えた。
見ると、エンディを前方にすり抜けたウルフブラックがウエストサム湖にむかって降下体制に入っている。信じられないと目を見開きその姿を見ているエンディの視界にウルフブルーの機影が入り込んできた。
「抜かせるかよ!」
ウルフブルーとオセロットイエローの機体が激しく接触した。お互いのルートが重なり、ぶつかり合うと、二機の機体がもんどりうって跳ね上がる。二機の機影は樹林帯を抜けたかと思うと、ウエストサム湖のループロードに向かって大きく投げ出されていった。
「な!」
飛び出すオセロットシルバーの目の前に、ウルフブルーとイエローの機体が絡まりあってルートをふさぐ。ビーストモードに変形をして大きくジャンプしてかわすと、オセロットシルバーは、ワイヤーで旋回軌道を描きループロードに向かって降下体制に入った。
「ティナ!」
続いて、ウルフピンク、ブラウンも樹林帯を抜けて大きくジャンプ。カルラとベルは、二機が空中に放り出されて、ウエストサム湖に向かって飛んでいくのを見た。
バイクモードに変形をしてループロードに着地をするオセロットシルバーがドリフトしてゴールに向かって機体を立て直す。ティナが顔を前にあげると、ウルフブラック、ビフは一足先にゴールに向かって加速していた。
バックモニタ越しにウルフブルーとオセロットイエローの様子を見つめるビフ。
ウエストサム湖は走行可能エリア外だ、あのまま、湖に落ちれば失格になってしまう。
しかしビフは、その二機に背中を向けたまま、ゴールに向かって先を急いだ。
「くそっ!」
慌てるクラン、軽く接触してオセロットイエローだけ押し出すつもりが!と、落下体制に入るウルフブルーの機体をひねって、ワイヤー補助を使おうとしたが、アームを引っ掻けるためのめぼしい場所が見つからない
俺としたことが!とあきらめかけたその時、
「ウルフブルー!」
と叫ぶ声が聞こえた。見ると、オセロットイエロー、エンディが、シールド越しにこちらを見ているのが見えた。その瞬間、ウルフブルーの機体に衝撃が走った。
「!」
オセロットイエローが、ウルフブルーに蹴りを入れていた。衝撃に息を詰まらせるクラン。苦しそうに見つめるその先に、光る波間に向かって遠ざかっていくオセロットイエローの姿を見た。
「て!てめえ!」
ループロードに向かって飛んでいくウルフブルー、クラン。遠ざかっていくオセロットイエロー、エンディが、にやっと笑ったように感じた。




