02_06_04
ウルフブラウンとピンクのスピードが上がった。コーナーを急激にバンクして、森の影に消えていく二機。
「まだスピードが上がるのかよ!」
驚くマガネ。消えていったウルフたちの機影を追って、オセロットシルバーがコーナーを攻めていく。三機のライン取りを追うように、オセロットグリーンもスピードを上げ、オセロットシルバーの背中を追うようにアウトからコーナーを攻めた。続くスラロームの先で、前方を走るビーストマシンの機影が遠ざかっていくように感じると、マガネの持ちの焦りも高まっていった。
「この走り!あの三機!ほんとに女ライダーかよ!」
オセロットグリーンが推奨ルート点滅させたかと思うと、オセロットのマシンAIがマガネに向かって言った。
「誤差範囲が広がっています。マガネ、焦らず、オセロットシルバーの挙動をトレスしてみて下さい」
「わ!わかってる!」
少し近づいたと思ったティナの背中が、次のコーナーでは、ぐんと先に進んでいる。インコースをバンクぎりぎりに寝かしてアクセルをふかすマガネ。ビリビリとバイザーを揺らす風圧に汗がにじみ、体が強張っていく。
「ぐう!おいていかれるかよ!」
コーナーバンクをぎりぎりまで倒して攻めるベル。バックモニタでウルフピンクの姿をちらと確認した。
「そのうるさいピンク!映らないようにしてやる!」
ギリっと歯を食いしばって、アクセルをふかす。ウルフブラウンの示す推奨ルートを正確にトレスしながら、加速タイミングを踏んでいくベル。ウルフブラウンのマシンAIはクリアーレベルを得点化すると、ベルに向かって“Goot”マークをポップアップさせた。
しかし、ウルフピンク、カルラは、ウルフブラウン、ベルのコース取りをきっちり追跡している。一定の距離を保つその機体の軌跡は、モニタ上で、ぴったりベルの軌跡の上に重なっていた。その正確な走りに、背筋にぞっとするようなプレッシャーを感じるベル。
何時でも抜けるって?
ぎりぎりと握るハンドルに力が入る。
マガネはティナの後方からそのライン取りをトレスするかのように必死でマシンを操舵していた。銀色のスーツを着たその姿に、ポケットライドをしていたころの小さかったティナの姿がダブって浮かび上がる。
そうだ!あんときもそうだったよな!
マガネの脳裏にポケットライドをしていたころの景色が蘇ってきた。
力任せにレースをしていた幼いころ。ビフとマガネがせめぎあっていた前方を、ティナはいつも、ゆうゆうと走っていた。まるで、自分たちのマシンよりもはるかに軽やかで速いマシンに乗っているかのように。
実際は、特別なマシンは一つもなかった。マガネもティナも、金持ちだったはずのビフも、その頃は、エレメントスクールの幼い生徒が誰でも乗れる、レンタルのビーストライドでレースをしていて、その基本性能はルールに従い、全て同じだった。その時、ティナは、参加している中でも飛び切り早いビーストライダーだった。
今もそれは変わらない。あの頃は、自分だって負けていない!と幼い意地を張ってうまくテクニックを盗むことが出来なかったけど、今はわかる。ティナはデータもリンクして自分にマシンを扱うテクニックを目の前で教えてくれている。
すげー!すげーよ!ティナ!
モニタ上で前方を走るウルフピンクとブラウンがルート先の視界に入る。ブランクから飛び入りで参加している自分が、こんな風に、あのユニバースの化け物じみたスピードに迫れるのも、ティナのライン取りがそのままマガネの頭の中に入ってくるからだ。
コースのライン取りと目の前のコーナーに浮かび上がるルートがマガネの頭にリンクする。もしティナ仕掛けるタイミングが分かれば、それに続いて俺も…、と、ルートの先を見つめるマガネ。オセロットシルバー、ティナの先に走るウルフの姿は、先ほどよりも鮮明に、その姿が射程圏に迫ってきていた。
ウルフピンク、カルラは、ウルフブラウン、ベルの背中を見つめて、しばし考えていた。
このまま、ビフ達との差を縮めるのもいいんだけどね。
先行するモニタ上の三機の光点、ウルフブラック、オセロットイエロー、ウルフブルーのトップ一列に向かって徐々にライダー同士の縦のラインの伸びが縮まっている現状なら、成り行きに任せてもと思う反面、オセロットシルバーとグリーンの追い上げを考えると、このポジションでやりあうのは、気にくわない。
バックモニタで後方を確認する。ベルの走るペースは悪くない。しかし、明らかにオセロットシルバーのペースは、ペースメーカーのベルを上回って、後方からアタックを賭けられるポジションに迫り始めている。
勝ちにこだわるつもりはないが、チームの最後尾でディフェンスに回るのは自分の役目ではない。
もう射程圏に入りかけている以上、あのオセロットシルバーは、確実に、私たちに仕掛けてくる。できれば、ブラウンに干渉材になってもらって、スピードを維持したまま、ユニバース側に有利なポジション取りをしたかったが、
どうやらベルは、私に抜かれるのが嫌みたいだ…
なんとなく、そのこともカチンときたカルラは、ペースを上げることと、オセロットに先行することだけを視野に、自分のルートを探ることにした。
早く来いオセロットシルバー。もっと、早く走らせてあげるから…
ウルフブラウン、ベルのハンドルを握りこむ手がジワリと嫌な湿り気を帯びていく気がした。スピードを維持して、トップを走るビフ達に追いつきつつある自分たちに、後方に位置する、オセロットシルバーとグリーン光点の位置は、どんどん迫ってきている。
「このスピードで、追いつかれるなんて!」
バックモニタでその機影を確認する。ウルフピンクの後方、アスファルトの上に揺らめく陽炎の向こうに、銀色に輝くオセロットの姿が迫っていた。じっとブラウンのバックモニタを見つめるオセロットシルバーのライダーに目を奪われそうになった瞬間、その合間にいたウルフピンクが横滑りにふっと消えた。
ベルがㇵっと気が付いた瞬間にはおそかった、コーナーのINに潜り込んで、オセロットブラウンの脇から風のよう抜いていくオセロットピンクがビーストモードに変形して、後ろ脚を蹴り上げガードレールを越えて森の中に消えていった。
「え!」
と驚くベル、遠ざかっていくピンクの光点に沿ってデータリンクが変更されると、そのルートは曲がりくねったループロードから一瞬遠ざかり、再び、急激にS時に曲がるコーナーに乗り入れて、元のナビルートに合流した。
「ショートカット!」
舌打ちするティナ。モニタ上のピンクの光点を確認すると、
「オセロット!ウルフピンクの予測ルート!」
と叫ぶや否や、オセロットシルバーが、ウルフピンクが消えていったルート先に向かってスピードを上げて行く。オセロットからの返答と同時に、ビーストモードに変形して、森の中に消えていった。
「ええ!そっちか!」
マガネが驚くのと、オセロットグリーンから、推奨ルートの変更がポップアップされたのは同時だった。マガネもカーブするロードコースを無視して、ウルフピンクとオセロットシルバーが突っ込んで行った針葉樹林の森に飛び出していった。急な斜面の向こうに、全高数100Mはあろうかという針葉樹が空中庭園の柱のように屹立している。
マガネは、両腕のワイヤーアンカーを撃ちだし、エンゲルマントウヒの幹をつかむと、ゴンドラのように地上すれすれに扇形の軌道で大きく揺られて、そのままホワイトバークパイン枝を伝って、空中軌道に入った。バイザーのモニターにアンカー可能な推奨位置のロックオン表示が点灯する。マガネは、オセロットシルバーとウルフピンクの光点を確認して、先に空中軌道に入ったであろう二機の姿を探した。
いた!
この短い瞬間に、マガネのグリーンから、さらに先行して先に進んでいる。ウルフピンクの軌道とオセロットシルバーの軌道は、ほぼ対になって交わり、お互い独自のルートを進んでいるのが分かる。
そして、なにより早い!
息を飲むマガネは、二機のマシンに追いつこうと、次々とワイヤーで枝葉を伝いながら針葉樹林帯を飛び交っていく。目の前で針葉樹林帯の合間を飛び越えていくウルフピンクとオセロットグリーンの姿は、幾重にも高く重なる枝葉の隙間を縫って差し込む日の光を受けて、あざやかな軌道で、ぐんぐん先に進んでいた。
カイザーファウンテンエリアの時よりも軽やかにさえ感じる…
その空中軌道。一瞬目を奪われるマガネが気を取り戻す。
「くっ!くそう!俺だって!」
とオセロットグリーンを枝からジャンプさせると、先行する二機を追った。




