02_06_02
山間を抜けるルートは、曲がりくねったカーブが続く舗装された道路だ。
エンディは、クリアの通知を受けた瞬間から、ウエストサムに向かって、オセロットイエローをバイクモードにしたまま、ウエストサム、グランドループロードに向かってひた走っていた。
後ろからウルフブルーの気配を感じる。しかし、今は、2位でゴールラインを抜けることが出来るポジションに自分がいる。もし、前方を走るオセロットブラックに追いつけば、一位だって可能かもしれない。稜線をうねって伸びる、コーナーの多いルートを果敢に攻めるエンディ。モニタ上で、前方を走るウルフブラックの光点が徐々に近づいてくるのが分かる。
勝つのは私!そうでしょ!エンディ!
はやる気持ちと焦る気持ちがないまぜになる中、必死で自分を鼓舞するエンディ。はるか後方から迫るユニバースマシンの加速がプレッシャーとなって背中にのし掛かる。
自分でも相当なハイペースで進んでいるつもりなのに…。
モニタ上のマップ位置に目を走らせるエンディ。後ろにぴったりついてくるウルフブルーのさらに後方。ウルフブラウンの光点がぐんぐん加速して、自分たちとの距離を詰めてきている。練習で体験していた以上の走りを見せているつもりのエンディだったが、後方のウルフブラウン、ブルーはともに引き離されることなく、オセロットイエローに襲い掛かれるポジションをキープしている。自分がウルフブラックに追いついた時、確実に挟撃を受けることになる。
とはいえ、今は引くこともできない。
そんな時、さらに追い打ちをかけるかのように、ウルフピンクの光点の予想ルートが自分に向かって伸びてきた。
ウルフブラウン、ベルのスピードよりさらに速い!モニタ上で明滅するピンク光点の移動速度を見て焦るエンディ。
やばいやばいやばい!ティナとマガネは、どうなったの?カイザーファウンテンで足止めになってるの?
と思ったその時、オセロットシルバーと、オセロットグリーンがエリアクリア線を越えたことが通知された。
きたー?
ほっとした直後、そのラップ差に絶望感を抱くエンディ。このままだと、あの狼たちに何されるかわからない。
何でもいいから!はやく追いついて!
焦るエンディは、祈るようにつぶやいてスロットルを全開にしてさらにマシンを加速させていった。
オセロットイエローの後ろをウルフブルー、クランが追る。クランは、モニタ上で、後方を走るおウルフブラウンとピンクがぐんぐん追い上げてきている。
さすがだな、走りの加速だけなら、自分よりもカルラとベルのほうが上手だ。
と感心するクラン。オセロットイエローも、クランが考えていた以上のペースでルートを攻めている。しかし、ウルフィAIが示す予想では、ウエストサム・クリークエリアのルート中腹越えたあたりで、あのオセロットイエローを、ユニバースの狼の群れが捕食することが出来ると予想している。
カイザーファウンテンエリアをクリアーしたはずのオセロットシルバーとグリーンの機影はまだ見えない。そして、順当に加速してきたとしても。このラップ差は簡単に埋められない。
クランは、レースに集中しようと、前方のコースを、オセロットイエローの背中をじっと見つめた。その時、ウエストサム・クリークエリアのマップ上で、オセロットシルバーとグリーンの位置ピンが画面の端に見えた。しかし、後方に位置する二機のマシンは、グランドループロードにつながる自分たちが走っているルート上にはいない。
妙な胸騒ぎを覚えるクラン。
「ウルフィ!オセロットシルバーとグリーンの予測ルート」、
ウルフマシンAIから「表示します」の返答。二機の光点からぐーんと予測ルートが伸びていく。矢印は、自分たちが走る舗装されたスピードエリア上に戻ることなく針葉樹林エリアをまっすぐ越えて、曲がりくねったクランクの先で落ち合う形でウエストサムに交わっていった。
そして、クランは、二機のマシンの矢印が、自分たちの矢印と交わるタイミング。つまり追いつくであろう予測時間を見て愕然とした。後方で走るウルフブラウンとピンクとのラップ差から1分の誤差範囲で、その後ろにぴったりとつけるらしい。
オセロットシルバーとグリーンは不整地でのショートカットを選択した?
モニタ上の予想ルートを警戒メッセージを添えて、僚機にデータリンクして送るウルフブルー、クランは、オセロットイエローとの距離を縮めにかかっていった。
「うおおおー」
叫ぶマガネ。オセロットシルバーの移動ルートを追うようにグリーンを走らせるマガネだったが、しかし、ティナのオセロットシルバーのペースは速く、引き離されないのが精いっぱいだ。
「はええ!なんて空中軌道だよ!」
ティナのライドテクニックに圧倒されながら、マガネは、へまをしないように必死にグリーンを操舵する。木々の枝、幹に、ワイヤーを伸ばして、まばらに続く巨大針葉樹の間を飛ぶように抜けていくと、高い丘陵地帯にさしかかり、崖の先の森の向こうに、ロードコースがちらちらと見え隠れしてた。そして、モニタ上では大きく曲がりくねる舗装路と並行して進むウルフブラウンとピンクの光点が見えた。
オセロットシルバーが、ひときわ高くそびえたつ巨大なロッジボールマツにとりつき、100メートルはあろうかという半径の振り子で、その機体を一気に前方へ押し出していく。マガネも慌てそれに続いていくと、ティナが肩越しにマガネの様子を伺うと、一瞬でプイっと前に向き、容赦なくその差を開いて加速して行く。
俺を試そうってか!上等だ!ティナ!
標高の高い空中軌道を進むと、空気の層が薄くなり、目もくらむような浮遊感を時たま感じた。やがて樹林帯が開けると、草地に覆われたなだらか傾斜が前に開けた。オセロットシルバーも前方で、ワイヤーを回収して下降軌道に入っていく。マガネも後に続くと、落下の加速が風圧となってマガネの体を容赦なく押さえつけていった。
「うほおおおおぽ!」
オセロットシルバー、ティナとグリーン、マガネの機体が草地の斜面に着地して滑っていく、傾斜を加速し進んで行くと、その先に崖地が迫ってきた。叫ぶマガネをしり目に、加速したオセロットが、躊躇なく崖から飛び出していいった。
「い!まじかー」
驚くマガネの前で、ティナはアンカーを撃ちだし、崖地の下で生息するひときわ大きな針葉樹、ロッジポールパインにワイヤーを這わせで、大きく空中旋回をすると、さらに前方へと進んで行く。
「ああーくそう!どうにでもなれー!」
半ばやけになって崖から飛び出すマガネが、オセロットシルバーを追って、アンカーを前方のロッジポールパインにワイヤーに撃ちだした。
コーナーを攻めるウルフブラウン、ベルがモニター上で追い上げるオセロットシルバーとグリーンの光点を確認した。
「予想速度が上がっている?こっちも速度を落としているわけではないのに…」
焦りを感じつつ、リンクしたルート予測から、針葉樹林帯を走るオセロットたちが、オセロットイエローと合流する場面を割り出そうとするベル。
モニタ上に伸びるオセロットたちの予測軌道は、この先ルートの先の大きなS字カーブルートにまっすぐ伸びていく。
ショーション・レイク・オーバールックか…
オセロットシルバー、ティナはモニタのエリア軌道を確認しながら、前方に見える、できるだけ巨大な針葉樹を探した。ワイヤー軌道をできるだけ大きく確保して、スピードを落とさないルートを見つける。モニタに表示されたウェストサム・ロードエリアのループロードに交わる先なら、その場所が最適のように見える。モニタでオセロットグリーンの様子を確認する。何とかついてきているようだ。
フッ…と目を細めてその姿を一瞥すると、次のロッジポールパインにアンカーを撃ちだした。
ウルフブラウン、ベルは、ウルフピンク、カルラにデータリンクでオセロットたちの合流予想場所を共有した。ちらと、バックモニタで後方を確認するベル。ウルフピンクの機影が見えたかと思うと、一気に詰めてウルフブラウンの後方にぴたりとつけた。
さすがね、カルラ。
感心すると同時に、ベルも前方の向きなおってマシンのスピードを上げて行った。
ティナとマガネが針葉樹林帯を抜けていくと、さらに大きな山の稜線が高く続き、巨大な針葉樹の群れがマガネ達を阻むように続いていく。しかし、前方のティナは、迷いもなくその巨大樹に向かってアンカーを這わせ、次々ルートを制覇していく。マガネも、ティナが見せる空中軌道に必死で食らいついてく。
まるでティナにしごかれているようだ!と少し複雑な気分になるマガネだったが、先行してお手本を見せつけられている以上仕方がない。
あのクラッシュから、ずっと練習していたんだな…。
そのライドテクニック高さに改めて感心するマガネの気持ちが少し緩んだ時、山頂を越えて、イエローストーンカルデラの葉樹林帯が一望できるエリアに抜けた。一段下がった山の斜面に続く森の向こうに、大きな湖の水面がキラキラと陽光を照り返して輝いた。
ショーションレイクの湖面だ。
アンカーから振り子上に舞い上がったマガネが、その深い青と白いきらめきに、思わず目を奪われそうになるマガネは、危うくオセロットグリーンのバランスを失いかけた。
「うおっととと!」
高い斜面から、ロッジポールマツに飛び移り、慌てて体制を立て直すマガネ。完全にペースメーカーとなっているティナは、アンカーをつないでいくと、その前方でさらに上昇して、ショーション・レイク・オーバールックのトレッキングルートを越えて、さらに前へ飛び上がっていく。慌てて追いかけるマガネの眼下に曲がりくねった道路が見えた。モニター上のそのルートでは、ウルフピンクと、ブラウンの光点が、その先のクランクを曲がって加速して行くのを確認した。
もうすぐ肉眼で捉えられる距離だ!
興奮するマガネは、機体のバランスを整え次のアンカーワイヤーを射出すると。ティナがマガネに向かって叫んだ。
「マガネ!斜面を一気に抜けて、舗装路に合流するよ!」
空中を飛翔するようにティナが舞う。
マガネには心なしか、その声は、楽しそうに高揚しているように聞こえた。
こっちはついていくのに必死だってのに!なんてやつ!と心の中で思いつつのマガネだったが、
「お!おう!」
と答えるのが精いっぱいだった。




