02_05_31
カイザーファウンテンエリアから離脱したウルフブルー、クランが、ウエストサムの公道に向かって走り出した。その様子を見届けたウルフピンク、カルラは、カイザーファウンテンエリアに向きなおり、ウルフブラウンのルートを確認した。
モニター上の警告表示がエリアを覆いつくしていく中、フェイスフルカイザーファウンテンの間欠泉孔から湯気が噴き出し始めている。間欠泉の再開まで間がないことを感じたウルフピンク、カルラが移動を開始すると、噴き出す熱水泉の合間を縫うように、ウルフブラウンとオセロットグリーンの光点が並んでエリアを突き進んでいるのが見えた。
オセロットシルバーもレストエリアから飛び出し、周辺エリアを北上していくと、マガネのルートが伸びる軸線上に機体を寄せていく。リンクした推奨ルートデータは、フェイスルカイザーファウンテンを迂回したレストポイントに結ばれているはずだったが、緑の光点はそのレストポイントを越えてエリアの走破を目指しているのが分かった。
あのバカ!なんにもわかっちゃいない!
ランダムに噴出する間欠泉に阻まれ、ウルフブラウンのルートからも離れつつあるマガネの光点と目の前で活動を再開しようとしているエリアを交互に見つつ、自身のポジションを探るオセロットシルバー。渓谷表示上では、熱水泉の活動が再開をし始めている。
アシスト変更のメッセージを受け取ったウルフブラウンのベルは、合流予定のルートを崩さないように噴き出す熱水泉を慎重によけて進む。スピードは落としてはいない。自身の技量を最大限維持しつつ走るベルは、ルートの先にウルフピンク、カルラの姿を探した。
いた!
どぎついほどのヒステリックなピンクの狼が、エリアの外周でポイントを合わせながらこちらに向かっている。あの嫌味なほど自信たっぷりな態度が鼻につくカルラだが、正直、ペアリングでの空中アシストなら、カルラの右に出るものはユニバースにもそういない。嫌味さならクランと同レベルだが、技量はカルラのほうが安心できる。
「ほんと、レギュラーにならないのは惜しいわ」
ヒューマノイドモードに変形して空中で回転したウルフブラウンがウルフピンクのワイヤーを受け取ると、アンカーを固定して、岩場の上にドリフトしつつ機体を固定する。合わせてウィンチを高速で巻き上げると、空中を高速で飛び去っていった。空中の頂点に達し、慣性飛行に移ったそのとき、ウルフピンクが固定したアンカーを離す。ウルフブラウン、ベルが飛び去った後方位置では、モニタ上で警告表示が大きく膨れ上がると、間欠泉が連続して噴き上げ、エリアを埋め尽くしていった。エリアを走る途中から、バックモニターで確認できなくなったオセロットグリーンの光点を、ベルは、モニタの中で見つけた。
「レストポイントでとどまっていなかったのね」
少し呆れたベルが、着地体制に移った。残念だけど、あと10秒もたたず、そのあたり一帯は巨大な水飛沫で一帯が覆われる。ベルはモニタに視線を走らせた。そこに、水飛沫に阻まれて、大きく迂回をしているオセロットグリーンの光点に迫る銀の光点がベルの視界に入った。
オセロットシルバー!
「だからか、クリアポイントでカウントされていなかったのは!」
ベルは納得すると、空中で姿勢を整え、アンカーを回収しながら降下体制に入った。これで、ユニバース学園のビーストライダーは全員走破が確実になった。ベルはそう確信した。比べてエステート学園のビーストライダーは残り二人。
「早く、先頭集団に追いつかなきゃね」
着地をして大きくバウンドするウルフブラウンは、そのままバイクモードに変形すると、ウエストサムに繋がるグランドループロードへマシンを急がせた。
ウエストサムに向かって、オセロットイエローのスピードを上げるエンディが、エリアのクリア線をモニタで確認し、そのままスピードを緩めずラインを越えて、クリアポイントをゲットした。カイザーファウンテンエリアを2位のメッセージがポップアップされると、エリア歩道でその様子を見ていたる観客が歓声を上げる。その声に思わず身を乗り出すと、「よっしゃー!」と反応して、エンディは大きくガッツポーズをとった。
「やったあああ!」
「エンディが2位通過!」
「うおっしゃー!」
ピットインブースで、思い思いに叫びをあげて祝福するテムジとユアン。レイチェルもその様子をモニターで見るとガッツポーズをとった。しかし、間欠泉エリアで足止めを食らっているティナとマガネの光点をモニターで確認すると、レイチェルは、苦しそうな顔で、光点を見つめた。
「二人も無事でクリアーして!」
レイチェルは心の中で祈るようにつぶやいた。
エンディの後追う形でウルフブルーが3位でエリアラインをクリアしていった。モニタでそのことを確認するエンディ。見ると前方にはウルフブラック、ビルが先を進んでいた。
「このままいくと、ユニバースの機体に挟撃される形になるな…」と頭を巡らすエンディが軽く深呼吸をして前を向く。
「落ち着け落ち着けー 勝つのは私!そうでしょ!エンディ!」
頭の中で唱えると、エンディはファウンテンエリアからウエストサムに向かうグラウンドループロードを加速して突き進んで行った。
あと10カウントで活動再開。
モニタ上の警告表示はマガネを取り囲んで埋め尽くすように瞬いていた。無数とも思える熱水泉が周りから噴き出しマガネを襲う。飛び出す水しぶきと水蒸気が何段もディフェンスラインを引いて、マガネをつぶそうとアタックをかけてくる。今までのように、それを越えて、モニタ上で警告表示の向こうに銀色の光点へ近づこうとしたが、
甘かった…
タッチダウンができるエリアまで、そのかすかなルートを探すのに必死のマガネだったが、最後に現れた巨大なディフェンスラインが、かすかに見えるルートを押しつぶし、わずかな希望を打ち砕いた。フェイスフルカイザーファウンテンの警告表示が一帯を埋め尽くしたその時、水しぶきの向こうに、オセロットシルバーの小さなシルエットが見えた。
くそう!結局!全然力になれなかった…
舞い上がる水蒸気に紛れて視界を失っていくマガネ。
「ごめんティナ」
リタイアを覚悟したその時、オセロットAIがマガネに告げた。
「リンク要請です!」
迂回したオセロットシルバー、ティナは、ビーストモードで走りながら一瞬、オセロットグリーン、マガネの姿を捕らえたが、その姿はすぐに、激しい水しぶきの向こう側に掻き消されてしまった。
「オセロットグリーンのルート表示!」
警告表示が埋めていくモニターに、緑の光点から伸びる予測ルートが伸びる。同時に、オールドフェイスルカイザーファウンテンの休止時間がゼロのカウントを差した。水蒸気が一瞬膨れ上がり、その中心から巨大な間欠泉が大きな柱となってエリア全体を埋め尽くしていった。
横滑りでエリアの淵に止まるオセロットシルバー、ティナ。ギリっと歯を食いしばって、天空まで舞い上がった水しぶきを見上げて、ティナは、大きく息を吐いてその場にとどまった。
これで、エステートのビーストライダーは残り2人。
素早く水飛沫に背を向けると、エリアから離れようとするティナ。
早くエンディに追いつかなければ…
と思い直しバイクモードに変形して先を急ごうとしたが、ティナの視界の端に、ウルフピンク、カルラの姿が見えた。
ヒューマノイドモードのウルフピンクは、高台のうえで重心を落として、体に固定したアンカーワイヤーを引き付けて、ピンと張ったワイヤーを支えていた。ティナがその姿を見つめていると、固定したアンカーを離したウルフピンクがティナのほうを向いた。
盛大に埋め尽くす水しぶきが風に揺れて、雨のようにカルラとティナのもとに降り注ぐ。巨大な熱水泉は、オセロットグリーンがいたエリアを軽く呑み込んでいたが、しかし、オセロットグリーンのリタイアメッセージは届いていない。
「まさか…!」
ティナがウルフピンクが離したワイヤーの先を見た。
そこにはひらひらと空中で姿勢を制御するオセロットグリーンの機体が空を舞っていた。オセロットシルバーは、降下体制に入ったオセロットグリーンの着地地点を割り出すと、ビーストモードに変形して、予測地点に向かって駆け出していった。
「はああああ!」
大きく息を吐きだすマガネ。
ウルフピンクの突如のリンク要請に回線を開いたマガネは、彼女の示するルートを追跡して、姿が見えないまま、そこにアンカーを撃ちだした。その先には、カルラがいた。そのアンカーを受け取ったウルフピンクが引き上げてくれたおかげで、マガネは、何とかオールドフェイスルカイザーファウンテンの水飛沫から逃れることが出来た。
「助かったああ」
思わず安堵の声を漏らすマガネが地上に視線を戻すと、台地に足を踏ん張ったウルフピンクの姿が、そして、その向こうのファウンテンエリアと樹林地帯の境をたどるようにオセロットシルバーがこちらに近づいてくるのが見えた。ちょっと嬉しそうに笑みを浮かべたマガネは、手足を広げて降下体制に入った。




