02_05_30
マガネは握るアクセルを全開にして、前方を走るウルフブラウンとの差を一気に詰めた。
残り80秒でが自分がこのエリアで走るのを許された時間だ。それまでに可能な限り、ルートの制覇を行わなければなければならない。広がる台地は遠くから見ると、だだっ広い平野に見えたが、いざエリア内に飛び込むと、今までと同様に、細かい高低差が連続して段差を作っていて、気を張り詰めていないとハンドルを取られ、思わぬクラッシュとタイムロスを食らいそうな地形である。慌てマシンのバランスを取りながら、最大加速で臨むも、前方を走るウルフブラウンとの差もほとんど縮まない。
やっぱ早え!なんで、この地形で、そこまでスピードを維持できんだ!
マシンのGに耐えながら走るマガネは、前方を走るオセロットシルバー、ティナとウルフブラック、ビフがエリアを抜けたことに気が付いた。
ティナとビフが一抜けか…
と悔しそうに顔をゆがませながら、段差を避けて機体をバンクさせ、推奨ルートを忠実に追跡するマガネ。レストポイントがあるであろう場所を目を細めて睨みつけた。
エンディも体にのしかかるGに耐えながら加速の維持に努める。矢のように通り過ぎていく間欠泉穴と岩盤の凹凸が体を大きく揺らす。ブレーキを掛けたい気持ちを抑え、前へ前へ重心をのせていく。オセロットイエローの加速にエンディも恐怖を感じるほどだったが、後方のブルーはそれをものともせずぴったりくっついてくる。はやる動悸と息切れが、先のエリアで、ユニバースチームとのラフプレイを思い起こさせる。あの時と同じ轍は踏まないようにしなけらば…とエンディ。
大丈夫!エンディはやれる!勝つのは私!
心の中で唱えながら、後ろにぴったりついてくるウルフブルーが、さらに加速。ぐんぐんとオセロットイエローに迫ってくる。モニタ上の警告表示が徐々に戻り、活動再開予想時間も半分を切った。バックモニタ越しに睨みつけるエンディ。近づいてくるウルフブルーとのレストポイントの争奪戦に備えて身を固くした。
しかし、ウルフブルーは突然機体をバンクさせると、オセロットイエローの予定ルートの軸線から離脱した。ㇵっと、その進行方向を確認するエンディ。モニタの光点を見ると、その軸線上にピンクの光点が近づきつつあった。
エリアを抜けたオセロットシルバーは、クリア線を目指してマシンを加速させていた。
バックモニタには、ティナを後方から追い上げるウルフブラックの姿が見える。
ウルフブラック、ビフの進路を妨害するかのように、ややルートの軌跡にスラロームを与えているオセロットシルバーの姿を捕らえた。障害物のない直線やトルクの必要な登り斜面のように、やや平坦な場面ではオセロットマシンよりはウルフマシンのほうがパワーがある分有利だ。このままトップを走り抜ければ、このエリアのポイントはティナとユニバースに入るが、
「そう簡単にエリアポイントは取らせねえぞ」
ビフはにやりと笑うとウルフブラックのアクセルを全開にした。ぐんぐんその差を詰めるビフが、とうとうコーナーでオセロットシルバーを捕らえ、抜き去っていった。
残念だったな。ティナ。カイザーファウンテンエリアの一位抜けは俺のものだ!
ビフがクリアを確信し、一気にスピードを上げて舗装路を走り抜ける。エリアクリア線のアラートが鳴った瞬間、ビフは両手を上げてガッツポーズをした。
「見たか!ティナ!俺の走り!」
と後ろを振り返るビフ。しかし、そこにティナの姿はなかった。
活動休止時間が20秒を切り、間欠泉活動警告表示が再びその瞬きを大きくしていくなか、各マシンに、ウルフブラックのポイントゲットコールが鳴り響いた。コールをしり目に、ウルフブルーが、推奨ルートをたどりウルフピンクのアシスト予定地点まで一気に加速して行く。モニタ上のピンクの光点もウルフブルーに応じるように近づいてきていた。その時、目の前の間欠泉が突然噴き出した。あわやというところでバンクして回避していくウルフブルー。散発的に上がる水しぶきに気を払いながら、突き進むその先に、ウルフピンクの機影が見えた。
「受け取れよ!カルラ!」
ウルフブルーが、射出のタイミングを計っていると、モニタ上をかすめる黄色の光点が回り込むようにウルフブルーの前方をかすめていくのが見えた。思わず目を疑うクラン。オセロットイエローの機影が、噴き出す間欠泉の向こうを横切って、オールドフェイスルカイザーファウンテンを乗り越えていく。
「レストポイントに向かったんじゃなかったのか?」
クランが思うと同時に、ウルフピンクに向かってワイヤーを射出した。
そうだ。そういえば、オセロットシルバーのクリアポイントのゲットコールを聞いていない。
ウルフピンクがヒューマノイドモードに変形して、針葉樹林の枝に取りつくと、飛んできたアンカーを受け取り、木に固定してとどまった。ワイヤーが張ったのを確認すると、ウルフブルーはウィンチを一気に巻き上げて、その機体もろとも高く上空に飛び出していく。空中に機体を浮かせながら、クランはモニタで、各機体の位置情報を確認した。
モニタ上に現れる銀色の光点。
丘陵地帯を逆走して、オセロットシルバーがエリア内を横断しているのが見えた。ビーストモードでフェイスフルカイザーファウンテンエリアの外周を横断しているオセロットシルバーが、隆起した岩場に横たわる巨大な古木の幹に乗り上げ、さらにスピードを上げると、一気にジャンプした。
「ティナ!受け取って!」
間欠泉を避けながら加速してくるオセロットイエローが、空中に舞い上がったオセロットシルバーに向かってアンカーを撃ちだす。くるりと回転してそのワイヤーを受け取ると、オセロットシルバーは、古木の先の岩場に横滑りで降り立ち、ワイヤーを固定してその場にとどまった。
「エンディ!ワイヤー!」
エンディが、アンカーのワイヤーを一気に巻き取りながらマシンも加速させていく。そのまま岩場の隆起に乗り上げるとマシンが跳ね上げ一気に上空に加速した。その瞬間、エリア外周の間欠泉が舞い上がり、周囲を熱水泉で埋めていく。
「うそでしょ!」
ウルフブルーのワイヤーを固定しながら、その様子を茫然と見守るウルフピンク。たゆんだワイヤーの感触に気が付き我を取りもどし、アンカーから手を離す。ウルフブルーも下降に入りながらオセロットイエローの機体を確認した。
オセロットシルバーがチームとの合流のほうを優先した。
ウルフブルーは、その視界の先にオセロットイエローを捕らえながら地上へとダイブしていくと、エンディは、オセロットイエローは大きくバウンドして激しく上下させながら、オセロットシルバーを追い抜いて、前方に向かってマシンを加速させた。直後、エンディの目の前に、ティナからチャットメッセージが送られてきていた。
「ウエストサムへ!」
メッセージを受け止め、エリアから離脱していくエンディ。ビーストモードでたたらを踏みながら地上に降り立つウルフブルーは、機体のバランスを保ちながら推奨ルートの先を確認すると、その視界の先に。針葉樹林の奥に消えていくオセロットイエローを捕らえた。
「やろう!」
オセロットイエローのほうに向きなおるクラン。しかし、モニタ上のルートが赤く変色する。しまった!ブラウンのアシストルートから外れてしまう。その時、チャットメッセージとデータリンクによる推奨ルート変更提案がウルフブルーのモニタに表示された。
「ウルフブラウンのアシストをカルラに!ブルーはオセロットとブラックを追え!」
ウルフピンク、カルラからのチャットメッセージだ。一瞬戸惑うウルフブルーだったが、考えるより早くマシンAIに音声で反応する。
「了解!ルート変更承認!」
と素早くチャットを返すと、ウルフブルーをバイクモードに変形させて、オセロットイエローを追って針葉樹林帯の中に突き進んで行った。




