02_05_28
轟音が地響きとともに伝わり。高く舞い上がった白い障壁が、樹林が続く向こうに舞い上がっていた。
木々の間を縫うように加速するオセロットグリーン、マガネ。うねって曲がるファイヤーフォール川の浅瀬を抜けると、前方のウルフブラウンが樹林の向こうにバンクして消えていくのが見えた。
気を抜くと離される。
マガネは、オセロットグリーンが示す、いくつかの安全な推奨ルートを頭に叩き込みながら、バイクモードでウルフブラウンに距離を開けられないように速度を上げて行った。
ウルフブラウン、ベルも、ルートの先を走るウルフブルーに離されまいと走る。今はスピードを落とすわけにはいかない、と、データリンクされたモニタの推奨ルートを確認するベル。
フェイスフルファウンテンは、一定の間隔で噴出と休止を繰り返す。そして、モニタに候補として現れる推奨ルートは、どれも、自分たち一団が、休止時間内でのトライアルで、エリアを抜けるのが難しいことを示していた。
「エリアを走破できる可能性は5分ですが、もし失敗すれば、アンカーワイヤーアシストの必要性が増すでしょう」
オセロットグリーンAIはマガネに向かって答えた。
モニタ上では、リンクした両機と、リンクが切れた相手方マシンの予測ルートが入り乱れ、トップ集団が待つカイザーファウンテンエリアに伸びていく。
間欠泉が休止時間中にエリアを抜けるためには、相当な速度でエリアを走破しなければならない。
マガネは前方を走るマシンを見つめた。
先頭集団は、エステートチームでアシストできるライダーはティナだ。しかし、ユニバースはビフとカルラの二名いる。つまり、相手側は、ゴールに向かうライダーとアシストに残せるライダーとで役割を分けてリスクを下げることができる。一人のライダーが単機でウエストサムのゴールラインを切れば、その時点で、この試合はユニバース学園の圧勝だ。
それを阻止するため、ティナは、単機でゴールを目指すかもしれない。
そうなれば、自分達、オセロットイエロー、エンディとグリーンのマガネは、タイムロスを受け入れて安全策でフェイスルカイザーファウンテンエリアを走破するしかないだろう。
ホント、勢いよく登場した割に、足しか引っ張手ねーな…俺。
思案しながらも落胆するマガネ。そこに、ティナからのデータリンク通知が現れた。
マガネは目を丸くしてそれを見つめた。
追尾するウルフブルーをバックモニタで確認しながら、エンディは、あの憎らしいウルフの挙動に惑わされまいと、必死でオセロットイエローの手綱を握っていた。
「落ち着け!落ち着け!私!」
エンディは呪文のように唱えながら、飛ぶように抜けていく木々の影を避け、オセロットイエローが示す最速のルートに沿うようにマシンを操っていく。
ティナからのデータリンク。モニタ上では、Goodボタンが押されたルートがポップアップされている。
今は集中して、推奨ルートをミスなくクリアしなきゃ!とレースに集中し、ハンドルを握る手に力を入れる。後輪の回転を上げ、さらにウルフブルーを引き離すようにオセロットイエローを加速させていった。
あのウルフブルーに借りを返すのは、ファウンテンエリアを無事に抜けてからだ!
ウルフブルー、クランも、樹林地帯を進んで行く。距離を保ち、オセロットイエローの後ろ姿をじっと観察するクラン。
「ウルフィ!オセロットイエローの予想ルート!」
モニタ表示が切り替わり、オセロットイエローの光点からいくつかのルートが伸びる。
オセロットイエローに引き離されまいと追うクランは、自分の推奨ルート候補をオセロットイエローの予測ルート線上に折り重なるように誘導しながらルート取りを行っていた。
先頭集団と、前方のオセロットたちの出方によっては、自分たちもレストポイントに身を寄せなければならない。
クランは自分が考えることは二つだけだと考えていた。
1つは、ユニバースチームが安全にエリアを抜けること、そしてもう一つは、レースの展開がユニバースに有利に働くために最大限動けること。
そのためにも、今はあの黄色いヤマネコを、いつでもウルフブルーが捕食できるようにしておく。
じっと見つめるクランの口の端がにやりと笑った。
全高80mの巨大な間欠泉がウルフピンクの機体を飲み込まんばかりにそそり立っていた。
ウルフピンク、カルラは、逆流する滝のようなその白い熱水泉を見つめていた。モニタ上の銀色の光点が、その視線の先には、オセロットシルバーがレストポイントで待機していることを示している。カルラは、先ほどのティナとの競り合いで、エリア走破をしくじったことにひどく苛立っていた。
駆け引きであのオセロットシルバーに負けた。
しかもビフのアシストまで招いてしまったことが、どうにも許せない。
いらいらするカルラは、今すぐデータリンクを切って、自分勝手に走りたい欲望に駆られる。しかし、そういうわけにもいかない。なぜなら、
終わった後に報酬を釣り上げてやるんだから!
あのオセロットシルバーの出方で、次のレース展開が変わる。
パワー系と侮っていたことに反省して、それ相応の対処で、エステート、チームを出し抜いてやろう。
カルラはグローブの馴染みを確かめ、グリップを握りなおす。ティナの姿はまだ見えないが、視線はじっとそこに向けたまま次のトライアルに備えた。
白いカーテンに阻まれたオセロットシルバーの機体が太陽の光に反射してきらめいていた。
ティナは後方の一団がいるであろう方向に背を向けて、自身の推奨ルートを確認した。
レイチェルが言っていた「完走第一」が頭の中に蘇る。
エンディとマガネは、送ったルートデータ、ちゃんと読み取ってくれてるだろうか?
ぐんぐん近づいてくる黄色と緑の光点を見つめるティナ。データリンクで得られた内容で、ユニバースのルート予想もやや精度が上がっていることを期待しつつ、モニタ上に広がっている走破ルートを見つめるティナは、水しぶきが落ちていくタイミングを計って大きく深呼吸をした。




