02_05_27
そう、俺はもう、あの頃の俺じゃない。
ゼネラルエレクトロニクス・マーティン社の子息として、誇り高い跡取りとして、その地位にふさわしい人間になるために、常に上を目指してきた俺、ビフ・マーティンは、このちっぽけな練習試合の後で、さらなる高みへと旅立つことになる。
目の前には立ちふさがる巨大な水柱をヒューマノイドモードで見上げるビフ。しかし、ビフには、その偉大なオールドフェイスフルファウンテンの姿が、まるで、自分をたたえているかのように見えた。
リニューアルされたイエローストーンコースは起伏も激しく、コースイベントも幅があり、チューニングアップされたウルフブラックのデモンストレーションとしては申し分ない。そして、この場所で、あのインチキライダーの息子、スクラップ野郎のマガネはもちろん、ティナに勝るライドを見せて、来年のビーストライドのエンデューロでは、このビフ様は皆の注目を一身に浴びる走りを見せてやる。
そんな確信を胸に秘め、モニターに向きなおると、ビフは、それぞれのライダーの位置と予測ルートに目を走らせた。
ポケットビーストライドで、マガネと張り合っていた小さい頃。クラッシュしたあの日。ビフは、学校区を移動して、今所属をしているユニバーススクールに転入させられた。
マーチン家は名門だが、エレメントスクール時代。なぜかビフは州立の一般校に入学をして、普通の生徒とともに過ごすことを求められた。
「幼い頃は、開かれた環境で様々な人間と接する経験が必要だ」
祖父曰くそういうことらしい。もちろん、幼かったビフは、そんなことを理解するわけでもなく、自由奔放、勝手気ままに学生生活を送っていた。恵まれた富裕家庭であるマーチン一族の一人であったため、周りの人間も多分に一目置かれたビフは、ありていに言えば、取り巻きもできて、ちやほやされていた、と言ったところだ。
そして、ポケットビーストライドに参加したときも、その態度は改めなかった。
むしろ、ライドチームを抱え、ビーストマシンの開発まで行うゼネラルエレクトロニクス・マーティン家であればこそ、その子息である自分は、最強のビーストライダーの称号とともに、マーティン家のトップランナーとなるはず、信じてやまないビフは、エレメントスクールでは、ますます調子に乗っていた。
わがままで自堕落、不摂生な生活は、適性体重を越えた肥満気味の体に出てしまっていた。ポケットライドは体重が軽いほうが有利。などとは、気にすることもなかったビフ。ライドレースに必要な「実力」「体力」ともに、お世辞にも備わっていたとは言えない彼だったが、周りが空気を読んでそれを補い、内輪のレースでは、ビフはいつも一位だった。そして、ビフもそれを当然のこととして受け入れていた。
そんな時、マガネとティナと出会った。
付き合っているグループが違うだけだったが、彼らはビフに忖度しなかった。そのことが最初から気に入らなかったビフは、マガネとティナと、ことあるごとにライドレースで張り合うこととなった。
そして、ラフファイトに近い無理な競り合いをおこした挙句に、大きなクラッシュを起こしてしまい、ビフとマガネとティナとはそれきりとなってしまった。
「マーティン家の人間としてふさわしくない」
そのことを聞いた父親は、厳しくビフを一喝した。
「ビーストライダーを名乗るにふさわしい人間ならば、一から心身をビーストライドで鍛え直せ!」
と彼はビフに銘じると、ビフをビーストライド部の名門校としても有名なユニバース学園への転入を決めてしまった。さらに父親は、マーティン家であることに甘えることは一切許さない!と念を押し、もし、ビーストライダーとしてふさわしい精神と肉体が、ビフに宿ることが無いようであれば、マーティン家からも除名されると思え!と部の指導を行う先生、顧問、先輩に至るまで、ビフを徹底的に鍛え上げる布陣を引いた。
父の本気を感じたビフは、その日から生まれ変わったかのように自信を鍛え上げることに精を上げた。
父の期待を裏切ることがあれば、マーティン家を勘当されてしまう。
その恐怖が、怠惰な生活を送っていたビフの生活態度を改めるきっかけとなった。そして、自分の中に蓄積されていた甘えは、スパルタの学園生活、主にビーストライド部による鍛錬によって、自身についた贅肉と共に大きくそぎ落とされ、より強い向上心は、肉体とともに精錬され、ビフを成長させた。
と、少なくともビフはそう信じていた。
そして今、天才的技能で多くのフォロアーを持つ、ビーストライダー、カルラと、当時は追いつくことさえできなかった、ビーストライダー、ティナをアシストさせて、難易度の高いイエローストーンコースを着実にライドして走破できるに至っている。
ビーストライドを続けてさえいなかったマガネなんて、相手にもならない。そのことを難なく証明して、新たなステップへ俺様は駆け上がっていく。
なぜなら、この俺は、ゼネラルエレクトロニクス・マーティン社の次期CEO!と目されるにふさわしい人間へと成長していくからだ。
モニター上には後続ライダーたちの光点が集まって来ている。
後続のライダーと合流するか、先を急いでゴールを優先させるか。
ビフはちらと、ティナがいる方向に向いた。
オセロットシルバー・ティナの出方で、自分たちの戦略が変わる。彼女が他のチームメイトを切り捨て、ゴールを目指すのであれば、当然、自分はそれを阻止しなければならい。もしくは、後続のチームメイトと合流を行うのであれば、こちらも、後続のウルフブルーとブラウンをそれぞれ引き上げて、自分たちに合流させ、トップグループを独占しなければならない。
単機でもチームでも、どちらもユニバースは勝ち星をあげる。
オールドフェイスルカイザーファウンテンの水飛沫がピークを打った。モニタの警告表示が徐々に小さく縮小し、周りの間欠泉もそれに呼応するかのように、低く垂れ下がっていく。
モニタが示すルートの先は、巨大な水飛沫に阻まれ、今は見えない。
しかし…、
にやりと笑うビフは、オールドフェイスフルカイザーファウンテンの巨大な水飛沫の向こう、その先のゴール、そしてさらにその先の未来を思い描く。彼は、ゆっくりと前傾に重心を移していくと、ウルフブラックをの姿勢を低くして、次の飛び出すタイミングを見定めていた。




