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ビーストライダー・マガネ【鋼】  作者: 時波彷徨
2章05~カイザーファウンテンエリア~
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 遠く離れたトレッキングルートでは観光客たちが歓声を上げた。


 大きく跳躍するウルフピンク。空中でバイクモードに変形すると、今までのエリアよりも、やや広く平坦な石灰岩の台地を加速して行った。勢いが収まっていく間欠泉の合間を縫ってスラロームして進むウルフピンク。カルラは、速度を合わせつつ視界の端で並走しているオセロットシルバーに気が付いた。


 近い?


 先ほど確認をしたルート表示に比べて違和感を感じるカルラが、モニターにちらと目を戻した。


 データリンクが切られている?


 モニター上のオセロットシルバーの予定ルートは非表示化され、ウルフAIの予測ルートへと切り替わっていた。カルラは、機体をバンクさせて、推奨ルートの確保に向かって加速して行った。


 勝負に出た?


 ビフもオセロットシルバーがデータリンクを切ったことに気が付いた。前方を加速しているオセロットシルバー、ティナとウルフピンク、カルラが、お互いにルートを交差させるように、マシンをバンクさせて急速に近づいていく。オセロットマシンでは、特別にチューニングされたユニバースのウルフマシンの加速に及ばない。まだ残存する間欠泉を避けながらとはいえ、カルラもそれほどスピードを落としている様子はない。チキンレースをすれば、カルラには勝てない!とビフは確信をすると、視界の端でオセロットシルバーを捕らえながら、その加速に応えるカルラは、オセロットシルバーがむしゃらに前に出ようとしているように感じた。


「個人の技量だけじゃ、マシンの性能を補うのは難しいよ」


 カルラはマシンをバンクさせると、オセロットシルバーの動きに合わせるように後方にウルフピンクを付けた。第2エリア、イエローストーン川沿いのロードエリアのトップで走破してポイントを得ているオセロットシルバーとしては、このエリアのポイントを取れば、4エリア中2エリアのポイントをゲットすることができる。チームライダーの一人をリタイアで失点しているエステートにとっては、そのポイントは是が非にでもゲットして、ユニバースチームとの総合得点差が開くことを阻止したいだろう。そんなことを考えながら、カルラはアクセルを上げて行く。カルラにとって、このレースは、ビフに依頼され、あくまでサポートで参加する練習試合である。無理に首位争いを仕掛ける必要はない。じっと、オセロットシルバー、ティナのテイルを見つめるカルラ。


 仲間がリタイヤして焦っている?そんなにトップでこのエリアを抜けたい?


モニタ上の警告表示が反転。間欠泉が収まっていくと、ティナとカルラの前方の視界が大きく開けていく。


 でも、だめ。そう簡単にクリアさせてあげない。


 カルラはアクセルを全開にして、オセロットシルバーとの間合いを一気に詰めていった。

 オセロットのルートを遮断して、クラッシュでロスタイムを起こせば、オセロットはここで足止めを食らう。でも、ビフが先行して、このエリアを抜ければ、あわよくば、ビフに引き上げられて、自分はここから抜けられる。最悪、ビフが先行して、このエリアを抜けて先にゴールにたどり着く。


 どうやっても、私たちユニバースを、あなたは抜けない。


 カルラは唇の渇きを舌でぬぐい。オセロットの後ろにぴったりとくっついた。

一列に連なるように走っていくティナとカルラ。カルラは仕掛けるタイミングを計りながら、オセロットシルバーティナの動きを見逃すまいと目を凝らした。

 間欠泉警告表示が活動再開のサインを広げて広がり、徐々に周りに噴き出し始める間欠泉。スラロームでかわしながら進んで行く。肩越しに後ろを伺うティナ。その瞬間、オセロットシルバーの機体がぐるりと回転して、機体とティナがカルラのほうを向いた。


「な!」


 カルラのほうを向いて、バックをしながら進むオセロットシルバー。しかもティナは、後方から迫ってくる間欠泉を避けながら進んでいる。驚くカルラを、ティナがじっと見つめている。バイザーの向こうに隠れて見えないはずのそのすました冷静な視線に射抜かれるように、カルラは呆気にとられた。


その時、モニタにビフからの警告チャットが入った。

「カルラ!ルート確認!」


 はっと気づくカルラの目の前で、変形したオセロットシルバーが、フッ…とまるで消えるかのように視界から消えた。


 しまった!


 カルラが我に返った瞬間、ウルフピンクが機体を大きく跳ね上げて横にそれ、地上をきりもみ滑っていった。そして、その先に大きく間欠泉の警告表示が広がった。


 巻き込まれる!


 機体を変形させて、無理やりジャンプするウルフピンク。気が付くと、周りのエリアはすでに活動域に入った間欠泉で覆われていった。誘われたことを察したカルラは、迂回ルートを見つけようとするも、前方に控えるフェイスフルファウンテンの巨大な警告表示が、自分の推奨ルートを遮断し始めていた。


「ウルフィ!レストポイント!」


 周辺エリアに検索したピンが現れる。くそっ!遠い!一か八か、エリアを抜けようとマシンを加速し始めたとき。

「カルラ!」

 はるか先をバンクして走るウルフブラックから、アンカーワイヤーが射出された。


 モニターを埋め尽くす警告表示とともに、再び、このエリア内一帯が巨大な間欠泉の白い柱に埋め尽くされた。


 大きく舞い上がったウルフピンクは、空中で反転して、ウルフブラックのアンカーから手を離すと、降下体制に入った。モニター上のレストポイントピンに向かって自身の位置アイコンが近づき重なっていく。

 わずかに残った古木片のてっぺんに降り立つウルフピンク。周りは舞い上がる水しぶきと水蒸気に覆われていた。荒い息を落ち着かせ、自分とウルフブラックの位置情報を確認する。自分に先行して黒い光点が一つ。ビフもどうやら、このエリアに足止めを食らっているらしい。


 あやうくリタイヤに追い込まれるところだった。


 ギリっと歯を食いしばるカルラがモニターを確認すると、銀色の光点もまたエリア内にとどまっていることが確認できた。思わずホッ…と一息つく。


 あのオセロット、まるで消えるように…


 ティナが見せたライドテクニックと、自身が嵌められたことにいら立ちを募らせるカルラ。激しく吹き上がる水しぶきに古木が揺れる。カルラは、機体のバランスをとると、自分を囲む白いカーテンを悔しそうに見つめて舌打ちをした。



 一方、ファイヤーフォール川をひた走るエンディ。轟音と地響きをかすかに感じ、フェイスフルカイザーファウンテンエリアが近いことを感じる。モニターを見ると、先頭集団はまだ、そのエリアを越えていないようだ。


 ウルフブルー、クランはトライアルであのエリアを抜けられなかったことに驚いた。「なにか、トラブルでもあったのか?」と、訝しむクラン。ウルフブラウン、ベルも信じられないといった様子でモニタを確認する。

 

 まだ勝負が終わっていないことを実感したエンディが口の端をにやりと上げた。


 シンガリを走るマガネも、思わず笑みを浮かべて前を向いて、オセロットグリーンを加速させた。



「すごい!ユニバースのブラックとピンクの二人を足止めした…」


 モニター上でファウンテンエリアの様子を見ていたテムジが茫然とつぶやく。

 レース経過のあっという間の出来事。

ユニバースのウルフピンクにスリップストリームのように煽らたオセロットシルバーが、間欠泉を越えながらドリフトして急反転。ワイヤーで離脱した後、あっという間にレストポイントまで退避した。

「この場面で、まさかこんな芸当をこなすなんて…」

 偶然ではありえない。ユアンはモニタ上に映るティナを驚くように見つめた。

「先生!あれって…」

 ユアンのほうを向いて口をあんぐりさせるレイチェル、フェイスルカイザーファウンテンエリアでとどまる先頭集団に、後続のライダーたちが追い付いてきた時、それぞれのチームの戦略も変わる。そのことを見越して、あえて、エリアを抜けることを選択しなかったのか、ティナの位置マーカを見つめてレイチェルがポツリとこぼす。


「計算なら。たいしたもんだわ」


 ウルフブラック、ビフも高台のレストポイントで、機体を休ませていた。

 ティナのリンクは切断されたままだった。


 なるほど、ここからは、真っ向勝負ってことか?ティナ。


 エリア後方から、後続のライダー達が迫ってきている。グリーンの光点は後続の一団の最後尾に瞬いていた。目の前の間欠泉が収まれば、奴らが合流し、ゴールまでのロスタイムはほとんどなくなる。ゴールまでは混戦になるだろう。モニタから目を離し、舞い上がる水しぶきに一瞥をくれるビフ。口の端に笑みが浮かべるビフ。


 おもしれえ…、圧倒的な格の違いを見せてやるぜ、スクラップ野郎。



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