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ビーストライダー・マガネ【鋼】  作者: 時波彷徨
2章05~カイザーファウンテンエリア~
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 さて、そろそろか?


 カルラは、じりじりと下がっていく水しぶきを見つめ、シートからゆっくりと体を浮かす。

 このフェイスフルファウンテンエリアを超えれば、あとはスピードコース。一時間と立たずに、このレースから解放される。


 カルラは早く、このレースを終わらせたかった。


 ライダースーツが汗と湿気と硫黄分の強い水蒸気でじめじめ体をむせ返らせるのを感じると、肌を刺すようなイライラが募っていく。


 早く帰ってアロマを利かしたミストサウナでゆっくり半身浴!デトックスを利かした後は、スキンケアも入念に!肌の潤いをよみがえらせなきゃ!


 と頭の中の自分が叫ぶ。しかし、モニタで、残りの走破予定コースを見てうんざりした。まだゴールのウエストサムまでの道のりが長い。


 割に合わない!


 とむっとした顔を上げるカルラ。

 ビフにもう少し吹っ掛けておけばよかった。いや!ふっかけよう!と心に誓って前を向く。

 本来、カルラの主な分野はダンスパフォーマンスで、屋内アクロバティックモトクロスの選手である。

 エレメントスクール時代から、数々のビーストライド、パフォーマンスで賞を総なめにした天才ライダーを自負するカルラは、自身の配信チャンネルで、多くのフォロアーを抱えるビーストダンス動画を配信している。

 ビーストライドエンデューロに参加してトップを狙う!などというモチベーションは、本来まったく持ち合わせてもいない。カルラは、泥臭くて汗臭いのが嫌!といった単純な嫌悪から、そういったレースには参加してこなかった。

 だが、今回、ビーストライド部でも名門校といわれるユニバースの、次期キャプテンと目されるビフから、積極的な出場のオファーを受けた。


 だから、前のめりになったわけではない。


 ユニバース学園は州内外から比較的裕福な、社会的地位のある家庭の御子息が通う、大変ハイソサエティーな名門学校だ。カルラも、多分に漏れず、世界に展開している某有名アパレルファッションメーカー、CEOのご令嬢である。

 ただ、趣味でやっている配信チャンネルで、これまた趣味でやっているビーストライドダンスパフォーマンスが人気が出て、フォロアー数がぐっと伸びたところに、学園内で噂になってしまい、それを聞きつけた先輩連中から積極的に勧誘を受けてきた。


 まあ、多少の拍付けしとくのは、あってもいいか。


 と軽い気持ちで入部を受け入れたカルラだったが、オフロードでの本格的なレースは楽しいものではなかった。

 どうしても、やっぱり、泥臭くて汗臭いのは嫌!


 そもそも、ケミカルで清潔な環境こそ、自分にとっての最高のホームグラウンドなのに、なんで、こんな泥と汗と、硫黄臭い湿気にまみれてべとべとになりながら走らなきゃならない!


 そんなこんなで、幽霊部員を決め込んでいたカルラだったが、ビフが今回の練習試合の件を持ち込んできた。


 報酬は、最新の三次元ホログラム録画配信機器セット。


 三次元空間上の物体形状と位置情報をスキャンして、即座にMR空間にデータを再生させる最新のモデルだ。市販化されていないこの録画機器で、MR配信できれば、いち早く、なかなか面白いプロモーションが配信できるのではないか?

 ということで、ものにつられて出場したカルラだったが、どうしてハードな長距離走破に体も結構な悲鳴を上げ始めている。日々、パフォーマンスダンススキルの向上を目指したアスリート並みのトレーニングはこなしているつもりだったが、この調子だと、明日は筋肉痛で何もできなくなるだろう。


 さて、この代償に、ビフに、さらに何をふっかけてやるか。


 ビフは、世界でも屈指の企業、ゼネラルエレクトロン・マーティン社CEOのご子息だ。ビーストライドマシンをはじめ、モーターライドやインフラ開発などでは、知らない人間のほうが少ない企業の創業者一族に名を連ね、将来は、その企業の重役として活躍することも確実であろうセレブリティーだ。

 ユニバース学園にも多額の寄付を行っている名家の御子息だからこそ、次期ビーストライド部キャプテンの座が約束されているのかな?

 と考えたくなるものだが、なかなかどうして、鼻持ちならない性格は感じるが、努力家の面もある彼は、ビーストライドのテクニックも見るところはある。だから、今回のサポートも請け負った。

 泥まみれになりながら、こんな悪路で体を酷使して、なんで、あんなティナとかいうパワー系女子とビーストライドでやりあわなきゃならんのよ!


 と、ややうんざりしながらも、リニューアルが終わったばかりのイエローストーン、エンデューロエリアの起伏に富むコースは、大自然の絶景も含めてなかなかエキサイティングな体験をさせてもらったと思う。そして、最初はなめてかかっていた、あのオセロットシルバーのライドスキルにも、自分は、やや魅了されている部分も感じていた。


 本分じゃないんだけどな…


 ふう…っと、ため息をつくカルラ、目の前の水しぶきが下がって、その先に広がる最後のファウンテンエリアが目の前に現れてきた。


 しっかり仕事して、きっちりビフからクレジットとキャッシュを引き出してやろう。


 カルラは、うん!と自分を納得させると、モニタの予定ルートに目を走らせた。ビフ、ティナと接続が継続されたデータリンクは、同じくタイミングを計っているビフとティナの予測ルートも合わせて表示している。

 そして、推奨ルートは、自分がTOPでこのエリアから抜けることを示している。


 納得気味にその内容を確認するカルラ。次の巨大間欠泉が吹き上がるまでのトライアルエリアであるこの場面では、一瞬の躊躇がリタイアにつながる。

 そう改めて自分に言い聞かせたカルラの目の前では、徐々に白いカーテンが下りてきていた。


 カルラは、自身が駆るウルフピンクを大きくジャンプさせた。








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