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ビーストライダー・マガネ【鋼】  作者: 時波彷徨
2章05~カイザーファウンテンエリア~
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「やった!追いついた!」


 追跡モニタ上に映し出されたイエローとグリーンのオセロットマシンの姿に、思わず歓声を上げるレイチェル、ユアン、テムジ。

「驚いた!あのロスタイムから、ここまで追い上げるだなんて」

「ほんとに!カイザーファウンテンエリアからの走りは、ちょっとすごいんじゃない!」

 ユアンとレイチェルが、信じられないといった様子で声を漏らす。

「でも!攻め過ぎでひやひやします」

 とテムジが言うと、レイチェルも

「ビギナーの怖いもの知らずかもしれないけど、幸運だけで超えられるほど、カイザーファウンテンエリアは甘くないわ…」

 とテムジに言うと、

「アメフトライダーは伊達じゃないかもしれない」

 と、モニターに目を戻してうれしそうに嬉しそうにほほ笑んだ。


 オートドライビングモードでコースエリアを外れたオセロットパールは、カインを乗せて、エリアの脇に待機している回収用トレーラーに向かってゆっくり進んでいった。荷台のコンテナの後部ハッチが開くと、オセロットパールはステップに乗って徐行して登っていき、コンテナの中に納まった。

 マシンが進むがままに任せて座席に身をゆだねたカインは悔しさで頭を垂れていた。その時、トレッキングエリアからワッ!と上がった歓声がカインの耳に届いた。見ると、モニタに映し出されたルートマップ上に、ファイヤーホール川に沿って走る四つの光点が列をうねらせて突き進んでいた。先頭はエンディのオセロットイエローだ。そしてウルフブルーと続き、その後方にウルフブラウンと続き、最後尾にマガネのオセロットグリーンが先頭集団に向かって追い上げている。

 マガネが食らいついている。

 まさか!目を疑うカイン。しかし、モニター上の光点は確かにあのオセロットグリーンだ。第二ファウンテンエリアで、自分たちのことで手いっぱいになり、マガネが迫ってきていることに気が付かなった。合流して立ちなおしていたら、もしかしたら…。

 目の前のレースに必死で、周りの状況を確認しなかった自分に反省するカイン。

 しかし、それ以前にデータの改ざん自体に気が付かなったことも問題なのだが、ほぼAIの判断にアナログで従うしかない自分に何ができたのだろうか?と思うと、少し背中に悪寒が走る。

相手方とのデータリンクは、だましあいもあるんだってことを、もっとシビアに考えないと…。

「ライダーはその場で待機して下さい。マシンを固定します」

 オセロットパールが車輪止めに固定されると、トレーラーの後部ハッチがゆっくり閉まっていく。自分のレースが終わったことを実感して、思わずため息をつくカイン。目の前のモニターでは、まだそのほかのライダーたちの光点が、列をなして、ぐんぐんと、オールドフェイスフルファウンテンエリアに向かって加速していた。


 ヒューマノイドモードで、枝葉の切れ端に立つオセロットシルバーのティナ。目の前のモニターには、ファイヤーホール川を猛スピードで走る四つの光点が映し出されていた。

 カインがリタイアした…

 エステートのビーストライダーが全員完走ができなかった残念だけど、急ピッチで追い上げてくる後続マシンの姿に、思った以上の番狂わせの予感を感じ、ティナの眼は薄く期待に微笑んだ。

 顔を上げたその先には、石灰岩の台地が大きく広がり、巨大な水蒸気の柱を舞い上げている。


 現在、ビフ、カルラ、ティナたち先頭集団は、オールドフェイスフルファウンテンエリアの入口に位置して、その名前の由来である、最後にして最大の間欠泉、オールドフェイスフルカイザーが収まるのを待っていた。


 広大な石灰岩の平地のど真ん中に、連続する無数のランダムな間欠泉が広がるその先にアッパーカイザーペイズンで最も有名な間欠泉が待ち受けている。観測史上、80秒の間隔で、絶え間なく約4万リットルもの熱水を40Mの高さまで上げ続けているその間欠泉。長い期間にわたって忠実に時間を守り続けていることから、「フェイスフル=忠実な」の名称を持つその間欠泉に模した巨大な白い障壁。平地にまるで噴火したかのような大きな水柱を屹立させるそれは、エリア一帯を覆いつくし、上から超えることは不可能だ。

 次の噴出タイミングまでで走り抜けなければ、ほぼリタイアとなるこの場所は、さらに多くのマシンが走る通常のビーストライドでは、数少ないレストエリアからこぼれた、約半数以上のマシンをリタイアに追い込む危険なエリアだ。

 連携してのジャンプ越えがほぼ役に立たない以上は、広がる平地を全速で走り抜けるしかない。モニタ上の推奨ルートもそう示していた。ティナのデータリンクは、ビフとカルラにまだつながっている。


 カルラはのどの渇きを潤すために、グミガムを口に放りこんだ。少しうんざりしたような目で、行く手を遮る巨大なカーテンを見つめている。目の前の大きな警告表示が消えることはない。中心の間欠泉は絶え間なく、一定のリズムで自身の拡縮を繰り返している。

 そのリズムに合わせて、ビフもカルラもティナも、飛び出すタイミングを見計らっていた。


 ビフはウルフブラックのモニタに表示されたルートの確認をしながら、ちらとティナのほうを見た。エステートのライダーが一人リタイヤしたが、そのほかのライダーは、クランとベルに引けを取らず、ぐんぐん追いついてきている。

「先にお前がスクラップになると思っていたがな…」

 突き進んでくる緑の光点を見つめて、ビフはフンと鼻を鳴らした。

 まあいい、付け焼刃のお前は、俺のケツすら拝めねえよ。

 ここからは、基本的にはスピード勝負。後続のチームに一足先に、カイザーファウンテンエリアを抜けてウェストサムへ向かう。だから、飛び出すタイミングもたどるルートも、各自の判断任せだ。大なり小なり今までも、示し合わせて連携してきたわけではないが…

「さて、ティナはどう出るか?」

 フェイスフルカイザーファウンテンが徐々にその威容を小さくしていく。それぞれのレストポイントで待機していたビーストライダーたちは、スタートのために身構えた。


 ファイヤーホール川に沿って走る後続のライダーたちは、お互いの距離も変わらず、川べりの大きな曲線に沿ってスピードを緩めることなく走っていた。

 エンディは、自分の後ろでぴったりとついてくるウルフブルーの姿を忌々し気に見つめた。


 何度も舐めたマネをしやがって。


 先ほどのエリアで、ウルフブルーの腹に思い切り蹴りを食らわせてしまったため、審査ポイントで大きくマイナスを食らってしまった。学生間でのビーストライドの試合記録は、登録されたマシンから報告される、記録上悪質なラフプレーと判断された行為に関しては、その行為の程度を審判を務めるビーストライドAIが判断をし、ポイントを減点される。大きく減点される場合は、ビーストライド資格は、はく奪されることとなる。一年目の練習試合から減点を食らったエンディは、内心じりじりとはらわたが煮える思いだった。


 誘われた…


 エンディは、混乱して頭に血が上った自分の判断が軽率なものだったとは自覚していた。そして何より、そのことを見透かされてラフプレイを引き出されてしまった自分のふがいなさも、あのウルフブルーの悪知恵も、たまらなく頭に来ていた。

 冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ…

 エンディは、大きく深呼吸をすると、後ろで様子をうかがうように、引っ付いて離れないウルフブルーの姿をじっと凝視した。

 次は、うかつな行動はとらない。よく考えて行動しろ!エンディ!

 自分に言い聞かせるように頭の中で唱えると、オセロットイエローのモニタに目を移す。

 トップ集団がスタートを切り始めている。ティナを差す銀色のオセロット、そしてユニバースの黒とピンクの狼の光点も前方に走り始めている。引き離されるわけにはいかない。


 勝つのは私!そうでしょ!エンディ!


と視線を前方に移して、オールドフェイスフルファウンテンエリアに向かって、アクセルを全開にした。





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